<37>「遠回り」して培った創作麺 行徳家(福岡市南区)

西日本新聞

 2月に訪問した際に食べたのは「五島のクロそば」。しょうゆベースのスープはあっさりながら、クロ(メジナ)のあらのだしが深みを感じさせる。合わさるのは喉越しのいい小麦麺。いい具合にスープに漬かったトッピングの刺し身は甘みがあり、柔らかな弾力も楽しめた。

 野菜たっぷりポタージュつけ麺、海藻と浅利(あさり)のジュレ麺、トマトとバルサミコ酢の酸辣湯(スーラータン)麺、ほうじ茶冷麺…。福岡市南区の「行徳家」店主、行徳貴さん(44)はメニューにない期間限定の創作麺を次々に生みだしている。この時は「ちょうど旬のメジナをもらったから」。常時はない。それでも、出会いを求めて通い続ける麺好きは多い。

 その一人が同市の升谷知夫さん(56)。年間300食以上の麺類を食べ、ブログ「HENO HENO」を運営している升谷さんは「ラーメンの魅力は味わいのエンターテインメント性と思う。店主の発想力と料理センスにかかる創作麺はその最たるもの」と語る。これまで70種類以上の創作麺を実食。「一見奇をてらったかと思いきや、味わいはきちんとしている。その実力に引かれまくりです」と今も通い続けている。

 「みそと納豆は同じ大豆だから絶対に合うと『みそ納豆ラーメン』を作った。イベリコ豚を使うなら、餌のドングリが使えないか考える」と行徳さん。「ずっと考えているので夢にも出てくる」と笑う。

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 福岡市生まれ。関西の大学を中退し、そのまま居酒屋などで働き、飲食業の面白さに目覚めた。23歳で地元に戻り、家業の手伝いなどで2年ほど働くうちに飲食業で身を立てることを考え始めた。そこで選んだのが「自分のソウルフード」のラーメンだった。

 市内の2店舗を渡り歩き、計3年間修業した。だが、独立はしなかった。「豚骨以外知らないことが不安になった」と複数のレストランを経営する会社に就職する道を選んだ。周りはホテルなどで経験を積んだ料理人ばかり。「みんなが師匠。いろいろ教えてもらい、トイレでメモもしました」。和食、洋食、中華と約5年間、がむしゃらに働いた。

 2006年、同市中央区平尾にあったカフェを夜だけ間借りする形で行徳家をオープンさせた。豚骨を出すつもりだったが「カフェの内観と合わない」と塩、しょうゆに絞った。それが評判になり、翌年現在の場所に店を構えた。

 ほかでは絶対ない何かを作りたい-。移転後に創作麺を始めたのはそんな思いから。常に新しいものを、しかも高い完成度で作り続けるのは難しいのでは? 「むしろ楽しいくらい。独立まで遠回りしたのが良かったのかもですね」 (小川祥平)

=2016/04/21付 西日本新聞朝刊=

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