組み体操(1)悩む体育教諭 ピラミッドはなぜもろい

西日本新聞

 運動会の花形にもなっている「組み体操」。児童生徒のけがが相次いでいるとしてスポーツ庁は3月末、実施にあたっては各学校が教育効果と危険性を考慮し判断するよう求める通知を都道府県教育委員会に出した。国として一律の禁止や制限はせず、判断を現場に委ねた格好だ。熊本県の地震被災地では多くの学校が再開さえ困難な状況だが、九州各地では5月末~6月初め、運動会を予定する学校が少なくない。組み体操はどうなるのか。福岡市内のある市立中学校を訪ねた。

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 国からの通知を受け、体育科主任のヨシダ教諭(44)=仮名=は、3月から同僚と話し合いを始めたという。

 「何かあったら、すぐ中止、自粛…。その流れ、どうなんだろう」「子どもの安全が最優先だからね」「子どもたちが厳しいことに挑戦し、力を合わせ、作り上げていくのが組み体操。その体験は貴重」「学級集団づくりにもつながっている」

 体育科教諭らの話し合いを受け、校長が出した答えは「安全に配慮し、今年も実施する」。職員会議で4月中旬、伝えられたが、異論は出なかった。

 この学校ではこの数年、「5段ピラミッド」と「3段タワー」=イラスト参照=に運動会で取り組み、これまで大きなけがはなかったという。今年はどんな形になるのだろう。「それは、授業で生徒たちの運動能力を見極めながら、考えていくしかない」。ヨシダはそう話した。

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 4月末、1年生の授業を見せてもらった。3クラス合同のその授業は、運動会の練習そのものだった。

 まず取り組んだのは、男女別列隊形の開閉。整列後、号令に合わせ、腕を広げてみんな体操ができるよう、隊形に広げる。その後、「クラウチングスタート」の練習。小学校の運動会では立ってヨーイドンだが、中学校では地面に指をつけ、しゃがんだ姿勢からスタートする。50メートル走のタイムが記録され、この記録に基づき、運動会のリレーメンバーが決まるという。

 気になったのは、その途中にあったペア(2人一組)のストレッチ体操。背中合わせになり、互いがリュックサックを背負うように、相手の両腕を抱えてかがみ、相手の上体を反らす運動である。

 だが、互いの体が密着することもあり、1人が遠慮すると、体操は成立しない。この体操ができないペアが何組かあった。「ここなんですよね。気になるのは」。ヨシダは話す。

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 かつては、そう問題にはならなかった組み体操が、一部の学校で崩れ、けがにつながっている背景には何があるのか。

 「10段ピラミッド」など、巨大・高層化傾向は論外だが、ヨシダは「人と触れる」「人を支える」という基本動作のもろさが一つの要因になっているのではないか、とも感じている。

 ヨシダによると、組み体操に必要な運動能力は「ランニング」(脚力)、「腕立て伏せ」(腕力)、「腹筋・背筋」など。ピラミッド崩落の要因として、そうした基礎体力の低下を指摘する関係者もいるが、ヨシダはむしろ、生徒たちの「人との関わり」の問題の方が大きいのではないか、と思っている。

 「生徒たちの中には、人の体に触れることに抵抗があるのか、体に触っていても、ちゃんと支えていない。補助(人を助ける)が機能しないと言うか」

 そんな生徒たちの様子も見計らいながら、ヨシダは今年の組み体操のイメージを固めつつあった。ところが、同市教委からは4月末、各学校にピラミッドなどの組み体操を禁止する文書が届き、新たな対応を迫られることになった。

 年間に事故8000件超

 スポーツ庁が日本スポーツ振興センター(JSC)のデータを基に調査・分析したところ、組み体操をめぐっては2014年度、全国の小中高校で8592件の事故が発生していたことが分かった。

 このうち「ピラミッド」が1133件、「タワー」が1241件。負傷部位で危険とされる「頭部」と「頸部(けいぶ)」の割合は、肩車=27.8%▽タワー=25.6%▽倒立=13.2%▽ピラミッド=10.9%で、いずれも学校での運動事故の平均5.5%よりも高かった。

 過去46年間に組み体操の事故で9人が死亡、障害が残った子どもは92人に上るという。けがをした子どもの位置の割合をみると「ピラミッド」では最下段が44%、「タワー」では中段が46%と最も多かった。

=2016/05/01付 西日本新聞朝刊教育面=

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