組み体操(2)中止決断 子どもの安全、最優先だが

西日本新聞

 福岡市内の市立小中高校などの全校長がほぼ顔をそろえていた。連休前日の4月28日、新年度恒例の「校長研修会」は粛々と始まった。だが、その通知文書が配られ、市教委幹部の説明が始まると、会場の空気は一変した。

 「児童生徒の安全を最優先し、ピラミッドやタワーの組み体操は禁止」

 確かに、全国では中止の動きが広がっていた。

 千葉県では柏市など7市町が本年度の運動会や体育祭で、組み体操を実施しない方針を決めた。柏市教委は校長会からの要請を受け、2月に全面廃止を決定。担当者は「(事故が問題となる中)あえてやって、大きなけががあると釈明できない。リスクを考えた」と話す。

 大阪市でもピラミッドとタワーを禁止。東京都でも都立高校や中高一貫校などで本年度、原則中止を決めた。

 福岡市教委ではこれまで、各学校に慎重な対応や配慮を求めながらも、「実施についてはあくまで学校判断」との姿勢だった。それを一転させる「禁止通知」は、他都市の対応に追随した形で、その流れを読んでいた校長も少なくなかったが、驚きは隠せなかった。運動会はもう1カ月後に迫っていた。

   ◇   ◇

 ある中学校の校長(55)もその一人。かつて体育教諭としてある中学校で取り組んだ「7段ピラミッド」の実践が評価され、表彰まで受けていたからだ。「危機管理の視点からは、やむを得ない判断とは思うが…」。割り切れない様子だ。

 校長が当時勤務していた中学校は荒れていた。運動会で組み体操はしていなかった。「子どもたちの気持ちを変えたい。学校を一つにしたい」。そんな思いから、3年生に組み体操の話を向けると「格好いい。やってみたい」と言う。運動会の3週間前だった。

 下段、中段、上段と練習し、積み上げていくと「6段」は1回で成功した。「何だ、簡単じゃないか」。そう思ってもらいたくなく「7段」を提案すると、生徒たちは「やります」。

 「でも、1段の違いは大きいんですよ」。生徒は授業だけでなく、昼休みや放課後も練習したが、成功したのは運動会の前日だった。

 いざ本番。教諭だった校長の笛の合図で、組み体操が始まった。一度は崩れた。女子生徒や保護者から「頑張れ」の声援を受け再挑戦。7段のピラミッドは誇らしげに組み上がった。

 「先生、一生懸命って、カッコイイいいですね」。運動会が終わった後、生徒のその言葉が何よりうれしかった。

 「組み体操は、段数の高低を競うパフォーマンスではなく、積み上げるプロセスの中に、子どもたちにとってかけがえのない学びがある」。校長は今もそう思っている。

   ◇   ◇

 ピラミッド崩落の要因として、校長が感じるのは生徒たちの「体力格差」。家庭の経済力が学力格差につながっているように、体力格差も広がっており、崩落の一つの要因にもなっているように思える。

 そして何より痛感するのは「教員の観察、指導力不足」。

 崩落を記録した映像を見れば、よく分かる。「補助すべき教員はどの位置に立ち、何を予見し、途中で止める決断をなぜしなかったのか…」。教員の指導力や感度、危機意識の問題も深く関わっていると思う。

 例えばとして、校長はこんな話もした。

 「不登校の子どもの机を、先生の教卓の隣に持ってくる、廊下に出す。これで子どもが学校に来られる? 欠席した生徒の宿題プリントが翌日も机に残っている。おかしいだろう? そんな先生もいますからね」

 こうした教育現場の内実を考えると、校長は今回の組み体操の「中止決断」をやむなしと受け止めながらも、複雑な表情だった。

 組み体操練習のポイント

(この中学校長が教諭時代に作成した資料より)

 (1)生徒の配置にあたっては、四つんばいになったとき、地面から肩までの高さをそろえる(2)生徒の目線は正面。下を向きがちだが、背中が曲がり、崩れやすくなる(3)中央部がやや低くなるような構造にし、中央軸に力が集まるようにする(4)土台となる1~3段の組み立て、解体を反復練習(5)耐久力とバランスが最も求められる中段には、体力のある生徒を配置。2~3のパートごとに反復練習する(6)練習を通じ、必ず支えてくれるという安心感を互いが持てるようにする(7)崩れた場合、頭や首を守るため、後ろに倒れるよう指導。背後には補助教員を複数配置する。

=2016/05/08付 西日本新聞朝刊教育面=

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