教育はどこへ特集(3)識者こう見る

西日本新聞

 ●「AI時代」前に学び問い直す 九大院教授(教育法制) 元兼正浩氏 
 人工知能(AI)の囲碁ソフトが世界トップ級の棋士を破った。この出来事は、教育の未来を考える上でも衝撃的だ。

 コンピューターの性能が人間の知能を超える-。世界の研究者たちにより、その転換点が2045年に到来すると予測されており、「2045年問題」をより現実の問題として突きつけているからだ。

 そんな近未来を見据え、人が学ぶべきことは何か。学校は何のためにあるのか。授業や教師の姿も変わらざるを得ない。20年に向け、国が進めている教育改革は、そうした流れのごく入り口でしかない。

 6・3制見直しは、現実には各地で先行している。中1ギャップ対策、学力底上げが狙いとされるが、人口減少・少子化に伴う学校統廃合も絡んでいる。都市と地方では抱える背景も異なっている。

 小中一貫教育を進める都市部では、学校選択制(通学区域拡大など)を導入しているケースも多い。義務教育学校が「エリート校」のようになり、通学費などが払えない家庭の子どもが排除され、学校間、学力格差の拡大も懸念される。逆に、地方では学校を選べないケースもある。選択権を謳歌(おうか)できる子どもだけが、手厚い教育を受けられる構図になっていないか。

 そうした中、国が公教育として法制化することには違和感がある。国が地域の先進例を吸い上げ、制度化した場合、似て非なるものになること(ブーメラン効果)が少なくないからだ。

 45年に向け、子どもたちが習得すべき力とは何か、学校とはどうあるべきなのか、そんなことをより根本から考え直す機会だ。

 ●「理念のない改革」に見える 元文部省官僚 京都造形芸術大教授 寺脇研氏

 安倍政権が目指す教育政策の方向性は、新自由主義的であり復古主義的。一方で、2006年発足の第1次安倍政権では目もくれなかった、ゆとり教育が目指した生涯学習的な路線もある。それぞれ相反する考え方が混在しているのが特色で、大きな理念のない教育改革に見える。

 教育には大きく二つの軸がある。「詰め込み」と「ゆとり」。そして「画一」と「選択」。戦前の教育は、画一性を重視し、詰め込み型になった。戦後の高度経済成長期には詰め込み度が最大になり、その実現のためには画一性が必要だった。詰め込み批判が出た後、ゆとり路線に向かったが、画一性を変えなかったことが問題だった。ゆとりと画一性は相いれない。だから「脱ゆとり」という揺り戻しは想定内だった。

 教育する側から学習する側に主権を移し、生涯学習につなげるのが、ゆとり教育の発想。私が文部省(当時)でゆとり教育を推進したのは、全員一律強制的な教育に反対だったからだ。ただ、ゆとり教育が完全実施された2002年は、まだ国民には「いい大学に入り、競争に勝たねば」という考え方が強かった。それがリーマン・ショックや東日本大震災を経て薄れ、「成熟社会の中で共生する」という考え方が強くなってきた。政権もこうした社会の背景を受け入れたという点は評価している。

 教育は、そう簡単に目に見える結果が表れるわけじゃない。今年生まれた子どもは平均寿命まで生きたら22世紀。もう20世紀的な価値観と決別しないといけない。教育改革は、遠い将来を見据えてやっていかなければいけない。

 ●「経済論理」優先の改革 懸念 熊本大講師(教育学・哲学) 苫野一徳氏

 コンテンツ(知識)ばかりではなく、コンピテンス(知識の実生活への活用・応用)を重視しようとする教育改革の動きには基本的に賛成だ。教師のあり方や教室の姿を変えていく一歩になると思う。

 6・3制見直しにつながる義務教育学校制度も、学校カリキュラムをより柔軟にし、詰め込み型の一斉教育ではなく、子ども同士の教え合い、学び合いを増やす「協同・プロジェクト型の学び」への転換につながる可能性を秘めている。

 子どもたちの学びのスピードや成長カーブはさまざまだ。義務教育の9年間で到達するための学びの道筋はいくつもある。

 ただ、今度の教育改革の背景には「グローバル化、日本経済の成長・再生」といった経済界の思惑も色濃く、それを国主導のトップダウン型で一気にやりすぎている、といった印象もぬぐえない。

 公教育は、経済発展に資する子どもたちを育むことが目的ではなく、全ての子どもたちが自由な存在であるよう、必要な力や「相互承認」の感度を育むためにこそある。その視点を忘れてはならない。

 英語教育の早期化、道徳の教科化は是か非か? 教育問題をめぐる議論は、二項対立の図式で語られがちだ。しかし、それは「問い方のマジック」だ。人は「どちらが正しいか」と問われたら、「どちらかが間違っているはずだ」と考えてしまう傾向がある。肯定、反対派の双方に理がある。

 では、どうすれば双方が納得できる第3のアイデアを考え合うことができるか。教育を考えるとき、私たちは常にそう問い合う必要がある。

 ●政府の意向 次々と反映 中教審と教育再生実行会議

 なぜ、こんなにも次々と教育改革の波が押し寄せるのか。その原動力になっているのが、「第2の議会」とも呼ばれる二つの審議会。文部科学相の諮問機関「中央教育審議会」(中教審)と、安倍晋三首相直属の有識者会議「教育再生実行会議」だ。

 中教審には「教育制度」「初等中等教育(小中高校)」「大学」など5分科会があり、委員定数は各20人。メンバーは学者や教育関係者が目立ちテーマごとに議論し、文科相に答申・報告する。

 教育再生実行会議は、識者18人で組織され、座長は早稲田大の鎌田薫総長。「21世紀の日本にふさわしい教育体制の構築」を掲げ、提言を重ねている。メンバーは経済関係者が目立つ。

 両審議会のメンバー選任には、首相や文科相の意向が反映されやすい仕組みだ。

 6・3制見直しにもつながる制度改革「義務教育学校」については、2005年の中教審答申で打ち出された。世界の15歳を対象にした国際学力調査(PISA)で、日本の学力低下傾向が浮かび、ゆとり教育の見直し論議が活発化したころだ。

 これを受け、文科省は08年から「特例校」を設け、新制度を徐々に導入。本格実施への下地をつくっていった。

 12年12月に発足した第2次安倍政権では「教育再生」を最重要テーマに掲げ、提言を重ねている。義務教育学校制度についても、14年7月に「新たな学校の種類」として制度化を提言。中教審答申を後押しする形で集中審議を重ね、改革の流れを一気に固めた。 


=2016/04/30付 西日本新聞朝刊=

特集「義務教育学校」導入(1) 押し寄せる変革の波

特集「義務教育学校」導入(2) 6・3制見直し 現場手探り

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