組み体操(3)迫る運動会 広がる波紋、分かれる対応

 春の運動会まで1カ月となった4月末、福岡市教委から出された組み体操の禁止通知を受け、市内の各学校は慌ただしい対応に追われた。

 連載初回(1日掲載)に登場した中学校の体育科主任ヨシダ教諭(45)=仮名=は、今年も安全に配慮した形で組み体操に取り組む予定だった。では、組み体操に代わる新たなプログラムを何にするか? 連休明けから若手教諭たちと話し合いを始めた。

 有力案として浮上しているのがマスゲーム(集団演技)。それも、教諭が指示するのではなく、生徒たちがアイデアを出し、話し合い、練習によって作り上げていく試みだ。

 「例えば、体を楽器に見立てて音を出したり、足踏みしたりして、1人、10人、100人と、徐々に大きな音と動きを生み出していく」。ヨシダは「ボディーパーカッション」も取り入れた、運動会の一場面を思い描いていた。

 16日から運動会の練習は本格化し、28日は本番。「子どもたちが主役となって、ピンチがチャンスになればいいのですが」

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 「(福岡市教委の)その気持ち、よく分かる。ですが、地域の要望や指導者(教員)の思いもありますからね」。福岡市近郊にある福岡県篠栗町の西邦彰教育長はそう話す。

 組み体操について、西教育長は「危険度が高い種目は反対」だが「難易度を下げ、安全配慮を徹底する」という条件付きで容認している。これまでのところ、その方針を変更するつもりはないという。

 町内には中学校2校、小学校4校(うち分校1校)があり、運動会は中学校は春、小学校は秋に開催される。中学校の運動会に組み体操はないが、小学校では主に5、6年生が取り組む。段数は3、4段で、小規模校では4年生も加わるという。

 西教育長は2008年から3年間、インドネシアの日本人小中学校の校長として勤務。在任中には鳥インフルエンザや学校への爆弾テロ予告などもあり、防護服や薬剤の備蓄、避難訓練に追われた。「あの時から『安全』に対する意識が変わった」と振り返る。

 帰国して、福岡都市圏の小学校長に着任。運動会に向け、児童たちが4、5段ピラミッドを練習する姿を見て、それまでは気にならなかった組み体操を「危ない」と感じた。

 中止を提案すると、教諭からは「子どもたちの集中力や体を鍛える大切な伝統行事」「楽しみにしている保護者も多い」。悩んだ末の結論が「段数を下げ、より安全に配慮した形で継続する」だった。14年に教育長になってからも、その対応を続ける。「A(実施)かB(中止)かの選択ではなく、ABやCの選択」と話す。

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 同町立勢門(せと)小学校(児童数約900人)も例年通り、今秋の運動会で組み体操を実施する予定。6年生が毎年、3段ピラミッドなどに取り組んでいる。

 同校は昨年度、県から「体力向上研究校」の指定を受け、体力づくりに力を入れる。3学年ごとに、朝のジョギング、独自に考案した体幹を鍛える体操なども続けている。

 「運動には、勉強と同じように思考力や問題解決力が求められる」と山本達也校長は考えている。「例えば、前転がうまくできない。なぜできない、どんな練習をすればいいか? そこに学びがある。できるようになれば、友達にもそのこつを伝えたくなる。学び合いや社会性にもつながっていく」

 組み体操についても「一つ一つの動きを、ぴたっぴたっと決め、みんなの力を合わせる。そこには感動があり、多くの学びがある」。地域や学校の対応は分かれる形となった。

 ■小5男子の体力、過去最低

 スポーツ庁が昨年4~7月、小学5年と中学2年を対象に実施した2015年度全国体力テストによると、女子は小中とも実技8種目の合計点の平均値が08年度の調査開始以降で最高だった。その一方、小5男子は過去最低だった。

 握力、上体起こし、反復横跳び、50メートル走、立ち幅跳びなどについて調査しており、種目別では、ボール投げが小中男女で過去最低を更新。握力も小中男女で過去最低を記録した。

 合計点(80点満点)の平均値は小5女子が55・2点(前年度55・0点)、中2女子が49・0点(同48・5点)。小5男子は53・8点(同53・9点)、中2男子は41・8点(同41・6点)。女子と比べ、男子の体力低下傾向がうかがえる。

 全国学力テスト上位の秋田、福井県は体力テストも上位を保っており、学力と体力の相関関係を指摘する識者も少なくない。

=2016/05/15付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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