【生きる 働く 第12部】障害者 個性生かして<3>IT使い「在宅」多様に

西日本新聞

 会社を辞めた理由は、オフィスでラジオが流れていたから。北九州市の女性(32)にとっては、体調を崩すほどにストレスが大きかった。

 大学院生のころ、発達障害と診断された。卒業後、別の会社を経て、憧れていたデザインの仕事ができる会社に就職した。

 仕事は楽しかった。ただ、視覚や聴覚などの感覚が過敏なため、オフィスに差し込む光にくらくらし、ラジオの音が頭の中で響いた。2次障害のうつ病が悪化したため、やむなく退職を決意。社長に障害のことを告げると、「君のために会社の環境は変えられない」と言われた。

 そんなとき、インターネット上で仕事を受注する「クラウドソーシング」というサービスがあることを知った。2年半前、大手の「クラウドワークス」(東京)に登録し、フリーのイラストレーターとして、自宅でロゴやイラストの制作を請け負うようになった。

 以前の職場では、「適当に」「ちょっと」と曖昧な指示を受けると、どうすべきか分からず戸惑った。今はメールでやりとりするため、不明点があっても確認しやすい。この女性は「メールは時間差があるコミュニケーションのため、落ち着いて必要なことを伝えられ、相手の要望もくみ取りやすい」と利点を挙げる。障害の特性として、感覚が鋭い分、視覚的な処理能力が高く、静かな自宅なら高い集中力も発揮できる。

 ただ、仕事の単価は低い。体調に合わせて働ける一方、量をこなせないために収入は安定せず、自立は難しい。外部との接点が少ないため孤立しがちで、支援も受けづらい。気づかぬうちに無理をしてしまい、体調が悪化することもある。それでも、「障害を個性として仕事に生かせる。ITの進歩が、諦めていた夢に挑戦できる場所を与えてくれた」と思う。

 時間や場所に縛られずに働ける「テレワーク」は、障害者の新しい働き方として期待が高まる。2006年には、在宅で働く障害者と国が認可した在宅就業支援団体に仕事を発注する企業に対し、一定の条件を満たしたら調整金などが支給されるようになった。ただ、企業からの発注は少なく、認可団体は昨年末現在で22団体にとどまる。

 東京都小平市の男性(25)は週5日、1日4時間、自宅でパソコンに向かう。ウェブサイトの制作や更新、顧客データの調査が主な仕事だ。6歳のとき、筋肉が衰えていく筋ジストロフィーと診断された。わずかに動く指先で、丁寧に仕事を仕上げていく。この男性は「仕事がなければ、世界は家の中だけ。社会に参加していると実感できる」と語る。

 男性は、社会福祉法人東京コロニー東京都葛飾福祉工場の「就労継続支援A型」を在宅で利用する。就労継続支援事業は、企業に雇用されるのが難しい障害者の「福祉的就労」を進める事業で、雇用契約を結び最低賃金が保証されるA型と、障害が重い人向けに雇用契約を結ばないB型がある。

 同法人は20年以上前から障害者のIT教育に取り組んできた。00年には、在宅で就労を希望する障害者が集まり「エス・チーム」を結成。ウェブ制作やデザインの仕事をワークシェアで受ける。チーム12人の大半が重度身体障害者で、4人がA型で働く。IT在宅就労推進係主任の吉田岳史さん(46)は「通勤の負担がなく、障害者一人一人に合わせた多様な働き方が可能」と指摘する。

 課題もある。福祉的就労の在宅利用では、仕事中、公的支援の重複を避けるという理由で訪問介護が利用できない。トイレや姿勢を変えるときは家族に頼まなければならない。

 月収は7万円ほど。賞与や障害年金と合わせれば、自立も遠くない。「仕事中も訪問介護が利用できれば、親の負担も減る。1人暮らししてみたい」。制度の改善を切に願っている。


=2016/06/02付 西日本新聞朝刊=

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