【生きる 働く 第12部】障害者 個性生かして<6完>社会が壁なくすことから

西日本新聞

 東京都北区の桐ケ丘団地。シャッター通りと化した商店街の一角に、高齢者でにぎわう店がある。カフェレストラン「ヴイ長屋」だ。

 建設から50年以上たった団地は、高齢化率が50%を超える。孤立しがちな高齢者が立ち寄って交流でき、栄養バランスの良い食事ができる場所を作ろうと、2014年に開店した。雇用契約を結ばない「就労継続支援B型」として働くのは、知的障害を中心に障害のある19人だ。

 外出が難しい高齢者の見守りも兼ね、配食サービスも始めた。近くの高齢者施設に出向き、掃除や庭の手入れなども行う。

 運営する社会福祉法人ドリームヴイの小島靖子理事長は「近くに飲食店やスーパーが少なく、『助かる』と毎日通ってくれる人もいる。高齢者の外出のきっかけや仲間づくりの場にもなっている」と手応えを感じる。

 障害者というと、今の社会では「支援の対象」と見なされがちかもしれない。しかしこのカフェで働く彼らは確実に、地域の高齢者を支えている。なくてはならない存在になっている。

 「支えられる」側から、「支える」側へ-。そんな動きは、精神障害の領域で顕著だ。精神障害のある人が、同じような障害のある人を支援する「ピアサポーター」。そのうち、それを仕事とする「ピアスタッフ」がここ10年ほどで増えている。

 男性(46)は就職したばかりの24歳のとき、統合失調症を発症した。「常に上司に監視されている」など妄想がひどくなり退職。その後4年間、家に引きこもった。

 転機はデイケアに通っていた32歳のとき。福岡県久留米市の障害者地域生活支援センター「ピアくるめ」が、全国でいち早く当事者をスタッフとして雇用することになり、採用された。

 男性は、引きこもりの支援活動を行い、精神保健福祉士の資格も取った。現在は、社会福祉法人つばめ福祉会が運営する就労継続支援B型事業所「ピアつばめ」(福岡市早良区)で施設長を務める。14年には、ピアスタッフでつくる「日本ピアスタッフ協会」を設立し、副会長に就任した。

 つばめ福祉会は、現在職員約30人の3割近くがピアスタッフだ。男性は「当事者ならではの視点や強みを生かせる」と利点を挙げる。自身の体験を語ることや回復した姿を見せることで、支援される側は「自分も回復できる」と希望を持てる。

 ただ、ピアスタッフはまだ、仕事内容や働き方が確立されていない。雇用契約が結ばれず賃金が払われていない例や、職場内での立ち位置が曖昧で孤立する例もあるという。

 私たちが生きていく限り、「支えられる」が「支える」へ変わるように、ある日「支える」から「支えられる」へと変わることだってある。健常者と障害者を区別し、障害者を「支えられる」対象とだけ見ること自体が、障害者が働く上でのバリアー(障害)を生み出してしまうのかもしれない。

 つばめ福祉会のピアスタッフ、女性(48)は以前、無理をすると統合失調症の症状が悪化し、入退院と転職を繰り返した。「今は誰かに頼りにされるという役割を持て、症状も軽くなってきた」。知的障害があり、「ヴイ長屋」で働く男性(69)も「いろんな人と交流でき、家にこもっているよりずっと楽しい」と働きがいを感じている。

 実は、ヴイ長屋で働く障害者の半数近くが50歳以上。就職できても短期で辞めざるを得なかったり、早期退職を促されたり、障害者が働き続ける環境は、いまだ厳しい。理事長の小島さんは「障害者がシルバー時代をどう過ごすかは重要な課題」と指摘する。高齢社会の日本では、障害者の高齢化問題も存在する。「地域で貢献できる役割を見つけたい」と小島さんは意気込む。

 =おわり


=2016/06/07付 西日本新聞朝刊=

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