親を愛せなくていい? 関係に悩む人々 語り合い 否定、依存受け 自己肯定感低く

西日本新聞

 親からさげすまれたり、依存されたりして育ち、大人になっても苦しんでいる人たちがいる。独立後も「育ててくれた親を悪く言うなんて」という社会通念の中で、思いを吐き出せないまま暮らし、社会生活にまで支障を来している。そこからの回復を目指し、手探りで進んでいる人たちを取材した。

 福岡市の美幸さん(36)=仮名=の母が、会話で最初に口にするのは、いつも「否定」だった。店で気に入った小物を手に取ると「そんなのオバサンくさい」。弟が食器を片付けると「男がそんなことするなんて」。思い通りにならないと立腹し、ドスドスと大きな足音を立てて自室にこもったり、作っていた料理を流しにひっくり返したりした。父は知らぬ顔。「私が家族の輪を保たなくちゃ」と美幸さんが一人でおろおろする。就職し実家を出ても、母は連日電話やファクスで言いたいことを一方的にぶつけてきた。

 そのうち、美幸さんは恋愛や職場での人間関係がうまくいかなくなった。言いたいことが言えないのだ。恋人にたばこのポイ捨てをやめてほしいのに、携帯灰皿を渡すのが精いっぱいだった。「自分に自信がないんです。優しいねって言われるけど、気分を害さないようにしているだけ」。涙が勝手に出るようになった。言いたいことをため込んだ心が、パンクした。

 訪ねたのは、ドメスティックバイオレンス(DV)など女性の相談に応じているNPO法人ウィメンズ・カウンセリングルーム熊本(熊本市)だった。そこで竹下元子理事長に、原因は親子関係にあるのではないかと指摘される。美幸さんは母から「依存」され、小さな否定の積み重ねにより自己肯定感を少しずつ奪われ、人間関係にも悪影響を及ぼしている-と。美幸さんは戸惑った。「親を否定しちゃいけないと思ってたから」

 同ルームは、美幸さんのような親子関係に悩む人たちのため、語り合いの場を月に1回開き、参加者は親に抱く思いを吐露している。

 参加した20代女性は「いつも夫婦げんかで、私は父の罵詈(ばり)雑言を母に伝える役割。インターネットで“毒親”って言葉を見つけて納得した。十分やったよなあ私、という感じです」。別の30代女性は「母はしつけと言っていたけど、暴言に近い感じ? あれはするな、これしなさい、と。もやもやして苦しかった」。共通点は親の意に沿うように生きてきたことだった。

 語り合いの場では、共感しつつ傾聴し、議論や批判、比較をしないのがルール。全てを受け入れる雰囲気がある。親と距離を置き、自分らしい生活を取り戻した女性は「いろいろ言い訳して実家に帰らないうちに『私、悪くないんじゃない?』と思えるようになった」。

 「親を悪く言ってはいけない」という社会通念は、親に拒否感を持つ人に重くのしかかる。「親を愛せない自分は、だめな人間だ」と思い詰めるからだ。

 そのため竹下理事長は、まず「自分を何でも否定する親を愛せないのは当たり前。あなたが健全だからこそ」と伝える。カウンセリングでは成育歴をひもとき、親から「×」を付けられた出来事を、一つずつひっくり返し「○」にしていくことで、自己肯定感を高めるという。

 ただ親子関係は、加害と被害、愛する愛さないなど、二分法で語れるほど単純なものではない。彼女たちの親も、自身の親との関係などが原因で、自己肯定感が低かったり子どもを自分の一部と思い込んでコントロールしようとしたりする傾向にあり、負の連鎖の根深さもうかがえるという。絡み合った糸を少しずつ解きほぐす作業の第一歩が、ここで行われている「親を愛せないと言っていい」ということなのだろう。NPO法人ウィメンズ・カウンセリングルーム熊本=096(381)8831


=2016/06/14付 西日本新聞朝刊=

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