現場から2016参院選(1) 農業、TPPには不安と期待

西日本新聞

 ビールの原料になる二条大麦の収穫を終えた農地にトラクターの音が響く。今月7日、田植えを控えて土を耕す吉野ケ里町吉田の農家徳安輝雄さん(77)の額から、まだ朝というのに大粒の汗が噴き出る。「一年でも今が一番忙しくて、きつい時期だ」

 18歳で農家を継ぎ、錠や鍵の製造会社に勤めながらコメや野菜を栽培してきた。定年後も兼業でコメ、大豆、麦を約5ヘクタールで育て、収穫物は全て農協を通して出荷している。農林水産省によると、県内の農地の6割は兼業農家が管理する。

 「担い手が育たない」。徳安さんが所属する弥生営農組合は組合員40人で計65ヘクタールを管理。8割は60代以上で年々減少している。誰かが栽培をやめれば農地は組合で引き継ぐため、1人当たりの負担は増す。それでも「農業には水源のかん養や環境保全の機能もある。耕作放棄地を生むわけにはいかない」と踏ん張る。

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 徳安さんは長男(47)に継いでもらう予定だが、農業の将来に不安がある。昨年10月、環太平洋連携協定(TPP)が大筋合意したからだ。コメは関税を維持するが、新たな輸入枠を設ける。政府は「輸入が増したぶんは国産米を買い取るので影響はない」と説明するが「買い取る財源の議論も不十分。安いコメの流入で米価が下がり、さらなる離農を招かないか」と懸念は消えない。

 県生産組合連合協議会会長を務め、大筋合意前には隔月で上京。コメや麦、牛肉・豚肉などの重要5項目の関税維持を訴えてきたが、肉も麦も関税の段階的引き下げで合意した。

 県内の多くの農家はこれまで集団転作の徹底など、国に協力してきた優等生だけに徳安さんには「裏切られた」との思いが強い。

 ただ、営農組合の経営強化や担い手育成には政権与党の後ろ盾も必要。「農業の未来を与党に全面委任する気にはなれないが、農家の声を届けるには政権とのパイプは大切で悩む」

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 農家の多くが反対か不安を訴えるTPPを「好機」と捉える生産者もいる。

 鹿島市飯田の丘に広がるミカン農園「佐藤農場」。佐藤睦社長(69)はポンカンなど、20種類のかんきつ類を約30ヘクタールで有機栽培し、約30年間で年間生産量を約300トンにまで拡大してきた。農協は通さず、消費者や業者に直販し、今では国外からも注文が届く。2011年に法人化。若手を中心に20~50代の社員15人がミカン作りに精を出す。

 「農業が変わる最後のチャンスだと思う」。佐藤さんはTPPによる輸入作物との競合懸念も「安さではなく、品質や安全性で選ぶ時代」と否定する。「良質な国産品は海外産に勝てる」。政府が掲げる「強い農業」の実現に期待を抱く。

 ただ、現行の経営支援制度は「利用要件が厳しく、手続きも煩雑」という声も仲間から聞く。今の農政に不満がないわけではない。

 「現場に根差した感覚や戦略がまだ足りない。先進的農家を応援する政策が、もっと必要だ。参院選ではそれを実現してくれる立候補者を選びたい」

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 7月10日投票の参院選が22日に公示される。政治と暮らしの今を考える。

=2016/06/15付 西日本新聞朝刊=

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