訪問理容 自宅へ施設へ 病気の高齢者や障害者対象 業界、ケア知識の研修も

西日本新聞

 高齢や障害により足が不自由で理容室や美容室へ行けなくなった人などを対象に、理容師や美容師が自宅や施設へ訪問する「訪問理美容サービス」が広がっている。超高齢社会で在宅サービスの需要が高まる中、理美容の世界も対応している格好だ。

 男性向け理容室と女性向け理美容室を経営する「ヘア&メイク ヤマグチ トゥシェル」(福岡市南区)。同店の理容師、三好隆祐さん(27)が訪れたのは、同市南区の山下卓夫さん(89)の自宅だ。

 山下さんは、3~4年前から膝を悪くし、理容室から足が遠のいていた。病院の看護師から同店の取り組みを聞き、2年前から月1回のペースでサービスを受けている。

 三好さんは、部屋に上がるとすぐに、もう一人のスタッフと部屋にシートを敷く。山下さんをゆっくりと椅子に座らせ、慣れた手つきで髪にはさみを入れていった。

 散髪の間は、最近楽しかったことや、若い頃の思い出などで会話が弾む。散髪が終わった後はひげそりも。山下さんは明るい表情で「さっぱりして気持ちがいい」と笑顔を見せた。

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 同店が訪問サービスを始めたのは、3年前。オーナーの山口貴志さんによると、来店客の高齢化が進み「送り迎えサービス」をしていたが、他の来店者に気を使う人や来店も難しくなった人も出てきた。店休日の月曜と火曜を中心に、訪問理容サービスを始めたという。カット料金は3千円、ひげそりは千円。ボランティアの思いも込め通常料金より少し安いが、「質の高さは店で行うサービスと変わらない」という。

 同店で働く11人中8人が全国理容生活衛生同業組合連合会(東京、全理連)の研修を受け、「訪問福祉理容師」の認定を受けている。さらにうち3人は、ホームヘルパーとして働ける介護職員初任者研修も修了している。

 現在の利用者は、月2~3人。オーナーの山口さんは「ビジネスモデルとしては難しいかもしれないが、超高齢社会といわれる現在、多様なシルバーサービスが求められている。細やかに取り組んでいきたい」と語る。

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 全理連は訪問福祉理容師のほか、高齢者や障害者に対する専門的な知識や技
術を兼ね備えた「ケア理容師」の研修も行っている。これまで4千人以上が研修を受けたという。

 訪問理美容に取り組む理容師や美容師などでつくるNPO法人「日本理美容福祉協会」(東京)は十数年前から、講習を実施し、訪問理美容に関するノウハウを身に付けた理容師、美容師を「福祉理美容士」と認定している。9千人以上が認定されたという。

 同法人の講習では、介護の基礎知識のほか、寝たきりの人やまひがある人に散髪や洗髪する際の注意点、狭いスペースで散髪する方法などを学ぶ。同協会理事長の鈴木心一さん(54)は「高齢化が進み、これからますます需要が伸びるはず。髪を整え、気持ちも前向きになってもらえるように理容師、美容師も技術を磨いていかないといけない」と話す。

 ただ、理美容業は衛生的な環境が整った店舗での施術が基本のため、誰でも訪問サービスが受けられるわけではない。病気や障害で理容室などに来られない人、高齢者福祉施設に入所している人など、法律や条例で限定されている。

 理美容業界の関係者によると、高齢者や障害者への訪問サービスは従来、ボランティアとして無料でされることが多いという。需要が今後も伸びていく中、有料サービスとしてどれだけ定着するかは、これからの課題のようだ。


=2016/06/16付 西日本新聞朝刊=

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