民謡編<293> はやし言葉

西日本新聞

 民謡には必ずといっていいほどはやし言葉が入っている。例えば炭坑節で言えば「サノヨイヨイ」である。全国的に知られるニシン漁の民謡であるソーラン節も「ソーラン、ソーラン」といったはやし言葉が耳に残る。福岡の祝い目出度にはエイショエーがある。歌の名前より、はやし言葉が別名として流布している民謡も少なくない。筑豊の採炭唄(うた)ははやし言葉の「ゴットン」からゴットン節と呼ばれている。

 『日本民謡辞典』(小寺融吉著、1935年刊)には400近いはやし言葉の基本語が収録されているが、これも一部だ。逆に言えば、はやし言葉があることが民謡を特徴付けている。

 民謡の歌い手は口をそろえて「はやし言葉があるので歌いやすい」と言った。つまり、調子をとりやすいということだ。調子をとるということは共同作業中、はやし言葉のところでみなの力を一点に集める効果や場全体の高揚感を生みだす。とりわけ、民謡がワークソングであることからリズム、流れが大事であり、リズムが狂えば命にかかわることもあった。

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 『民謡万華鏡』(佐藤文夫著、2014年刊)の著者は次のようにはやし言葉を分類している。

 「一つは擬音や擬声から来ているものですね。それからかけ声から来ているもの。合いの手、それから言葉の意味が音に変化したもの。そしてまじない言葉、と分けられる」

 「サノヨイヨイ」「ソーラン」は合いの手、かけ声といえる。擬音、擬声の一例として、著者は佐賀県民謡の岳(たけ)の新太郎さんを挙げ、「ザンザ、ザンザ」というはやし言葉は「水をかける音」と記している。これまでの連載の中で取り上げた民謡の中にもある。ゴットン節のゴットンは「炭壁にツルハシが打ち込まれるときの音をあらわす」と言われる。大分市佐賀関のタイ釣り唄のはやし言葉「ゴッチリ、ゴッチリ」は櫓(ろ)のきしむ音だ。

 言葉の意味が音に変化した例は福岡県八女市の八女茶山唄の「モマシャレモマシャレ」。お茶の葉を揉(も)みなさい、という意味だ。

 ただ、すべてのはやし言葉を分類、整理していくことは難しい。また、それぞれの民謡が生まれて伝承されていく中で、はやし言葉もさまざまに歌い手によって上書きされて当然、本来の意味から変化していったものもあるに違いない。

 民謡は労働の中から生まれた。はやし言葉は謎が多いが、はっきりと言えることは労働から生きる糧を得ることへの感謝や祈りの心を、どのはやし言葉も宿している。
 (田代俊一郎)


=2016/06/20付 西日本新聞夕刊=

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