【暮らしの行方】<下>労働 「同一賃金」どう判断

西日本新聞

■2016 参院選■ 
 担当地域をトラックで巡り、食料品や日用雑貨を家庭に配達する。同じ仕事を同じフルタイムでしているのに、孝之さん=仮名=の月給は別の男性より約8万円も少なかった。2人の差は正規雇用か非正規雇用か、それだけだった。

 孝之さんは30歳を過ぎてフリーターから転身、2003年にエフコープ生活協同組合(福岡県篠栗町)に非正規職員として入った。「『入り口』が違うだけで何でこんなに差があるの」「この給料じゃ生活できない」。非正規の同僚は職場を次々去ったが、今そんな声はない。「同一労働同一賃金」となったからだ。

 同一労働同一賃金とは、同じ労働に対しては、性別や雇用形態などに関係なく同じ賃金を支払うべきだという考え方。非正規雇用が労働者の4割近くに増える中、賃金は正規雇用の6割弱にとどまっており、参院選に向け与野党が一斉に実現を訴えている。

 エフコープは、03年から段階的に賃金制度を見直してきた。雇用形態を大きく分けて正職員とパート職員に再編し、共通の評価基準を使って賃金に反映させる仕組みに変えた。

 正職員もパートも、基本給は、業務や役職に応じた「職責給」と、能力に応じた「職能給」で構成する。同じ職責、同じ職能なら、両者に賃金(時間当たり)の差はない。

 正職員のみに支給していた年齢給や勤続給、家族手当などは廃止した。現在、パートとの差は、人事異動の有無による異動給や賞与、退職金くらいだ。

 移行を担当した管理本部長の島崎安史さん(54)は「新制度に不安を抱いたのは諸手当がなくなる正職員だけではない。パートも横並びから、評価で差がつくようになり葛藤があった」と振り返る。労使で何年も議論し、賃金水準を下げずに移行を実現した。

 孝之さんは現在、正職員として新たな部署で課長を務める。月給は配達担当のころの1・5倍に増えた。「頑張った分を評価され、組織に恩返ししたい思いが強くなった」と仕事に打ち込んでいる。職場の離職率は下がり、生産性とともに収益は伸びている。

 ただ、エフコープのように導入に踏み切る例はまだ少ない。日本は欧米に比べ、労働者が幅広い業務をすることを求められ、勤続年数などを考慮した年功賃金が一般的だ。何をもって「同一労働」とするのか、線引きは難しいのだろう。

 各党が掲げる「同一労働同一賃金」も、目指すイメージには温度差があるようだ。看板倒れではないのか、慎重に見極める必要がある。

 ●自民と民進 異なる立場

 同一労働同一賃金を推進する法律は昨年9月、自民、公明などの賛成で成立している。しかし同法が求めるのは「均等な待遇」だけでなく、「均衡の取れた待遇」だ。均等と均衡は、意味が違う。

 均衡は、仕事内容だけでなく、勤続年数や責任の重さなども踏まえてバランスの取れた賃金にすることで、必ずしも同一賃金とはいえない。民主、維新(いずれも当時)、生活の3党で提出した当初の法案は「均等の実現」を明記していたが、維新が自民党との修正協議に応じ、「均等および均衡の実現」に後退した経緯がある。

 民進などは、自民側とは「同一労働」のあり方が大きく異なると強調する。例えば、スーパーの「仕入れ」や「レジ」など、異なる業務は比較が難しいという立場が自民。民進などは、異なる業務でもその「価値」を共通の基準で計り、賃金に反映させることをイメージしている。業務に必要な知識や技能、労働環境などを数値化し、「仕入れ」が90点、「レジ」が70点なら、賃金を9対7にするような仕組みだ。民進のほか、共産、社民、生活の3党も「同じ価値」に基づいた同一賃金を目指す。

 参院選を前に今月発表した「1億総活躍プラン」で、安倍晋三首相は「正社員と非正規労働者の賃金差を欧州諸国並みへ改善する」と踏み込む姿勢を見せた。


=2016/06/21付 西日本新聞朝刊=

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ