託す~被災地から 「熊本の声 聞いて」

西日本新聞

 参院選が公示された22日、九州でも雨空の下で始まった候補者たちの論戦に有権者が耳を澄ませた。暮らしを一変させた熊本地震から2カ月余り。少子高齢化や中山間地の疲弊、取り残されがちな弱者など、被災地で浮き彫りになった課題は多くの地域に共通の悩みでもある。新たに有権者となった18、19歳の視線も注がれる中、与野党は経済政策アベノミクスや安全保障関連法を進めてきた安倍晋三政権の評価で鋭く対立。一方で首相の悲願とされる憲法改正を巡る論戦はかみ合わず、政治の思惑が交錯した。

 アーケードを支える鉄柱はぐにゃりと曲がり、雨漏りもしていた。安倍晋三首相が参院選初日のマイクを握った熊本市東区の健軍商店街。「復興をしっかり進めていく」。首相の演説に耳を傾ける女性がいた。近くの高齢者施設で介護福祉士として働くシングルマザー(42)だ。

 熊本地震直後、職場に中学生の息子と寝泊まりしながら働いた。熊本県益城町のアパートは「全壊」判定。それでも今も水道が止まったその部屋に住んでいる。

 避難所運営、物資搬送、災害弱者への目配り。震災を経験し、政治が暮らしに直結することを実感した。今の不安は、転居予定のアパートが「みなし仮設」と認められるのか。行政からの回答がなかなかもらえず、もどかしい。

 16日、北海道函館市で震度6弱の地震。21、22日は九州各地が記録的な豪雨に見舞われた。「よそでもっと大きな災害が起きれば、熊本は忘れられるかも」

 災害列島、日本-。

      *

 「震災で避難した住民が散り散りになっている。このままでは、村は寂れるばかり」。同県南阿蘇村河陽の自営業佐野徳正さん(73)は視線を足元に落とした。

 住民の暮らしと地域産業を支える大動脈、阿蘇大橋が崩落。震災は、人口減少が進む「消滅可能性都市」の危機に拍車を掛けた。

 ひんやりした阿蘇の風が好きだ。午後6時、防災無線からビートルズの「イエスタデイ」が流れる。過ぎ去った日を思わずにはいられないその曲が、一変した村を包む。別の土地に家を買う蓄えはなく、ここに住み続けるしかない。

 これまで投票を欠かしたことはない。もちろん、今回も。

 「復興に力を発揮してくれる候補を見極めたい」

 切なる思いを託したい。なおさら、今回は。

      *

 神戸大2年の寺本わかばさん(20)は、初の選挙を故郷の同県西原村で迎える。震災後の4月末、休学し村ボランティアセンターの運営に参加した。「私にできるのは住民の声に耳を傾けること」。被害の実情は住民それぞれ違うのに、行政は支援の枠組みを一律に線引きしようとする。「なぜなの?」。疑問が膨らむ。

 政治に関心は薄かった。被災地に身を置いてちょっぴり変わった。22日、大雨被害の対応に追われつつ、道路脇の候補者ポスターに視線を送る。「復興」を叫ぶだけでなく、私たちの声をちゃんと聞いてくれる人が理想。「そんな人、どうしたら分かるんだろう」。政治との距離感はまだつかめない。

   ◇    ◇

 政治と私たちの暮らしはどうつながるのか。熊本、大分の人々のまなざしを通じて考えたい。「託す-被災地から」

=2016/06/23付 西日本新聞朝刊=

PR

政治 アクセスランキング

PR

注目のテーマ