【つくられた貧困】東京中心の悪循環正せ 金子勝・慶応大教授

西日本新聞

 今や非正規労働者は2千万人を超えた。64歳以下に限っても約1700万人、54歳以下に絞り込んでも約1300万人だ。

 65歳以上の高齢者は3300万人、障害のある人たちは780万人。これに200万人超の失業者などを加えると、重複分を引いたとしても人口の半分以上は働けないか、不利な状況で働いている人たちという構成の社会にもなっている。

 1990年代後期から続く労働法制などの規制緩和と、金融緩和が生み出したバブル経済による格差拡大の行き着いた先が、今の日本だ。「1億総活躍社会」にはほど遠い現実がある。 確かにすべての都道府県で有効求人倍率が1倍を超えた。だが、これは少子高齢化や若者の流出で地方での求職者が著しく減っているためにそうなったにすぎない。景気回復ではなく、地域衰退の指標なのだ。

 地方には、高齢者福祉や建設、宿泊・飲食、卸・小売業くらいしか求人はない。若者はみんな東京などの大都市へ出てしまう。東京の4月の有効求人倍率は2・02倍と突出して高い。

 チャンスがある街のように見えるが、非正規で働く若者にとっては結婚できない、子どもを産めない街。出生率は全国一低い。東京が若者をブラックホールのように吸い込んだ結果、日本全体が少子高齢化していく悪循環に陥っている。社会の持続可能性は明らかに失われてきており、危険水域と言っていい。

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 子どもの貧困が深刻化する背景にはこうした社会の構造的問題があり、産業政策を変える必要がある。大量生産・大量消費という手法は右肩上がりの時代はいいが、人口減社会では有効性を失う。情報通信技術の発達を最大限に生かし、エネルギーや農業、福祉などの分野で地域ごとに多様なニーズを把握し、それに応じたサービスを提供する「地域分散型ネットワーク」型に転換していくべきだ。

 例えば、地方ではスーパーマーケットが郊外型の大規模商業施設に太刀打ちできず撤退していったが、コンビニは比較的堅調だ。売り場面積は小さくても、各店舗で蓄積した情報が共有化されているため、情報通信技術で顧客のニーズに素早く対応できるからだ。この仕組みは農業にも応用できる。直売所ではすぐに野菜を仕入れ個人ごとに収入を決済できるので、小規模農家でも月に100万円稼ぐことだってできる。

 地域の人や資源に根ざし、地域から逃げない産業を作り出すことこそが国内投資と需要を生み出す。それは格差や貧困の是正にもつながっていくはずだ。

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 バブル経済の崩壊後、1990年代半ばから企業は「雇用の調整弁」として労働者の非正規化を進めた。政府も99年と2004年の労働者派遣法改正で、当初通訳などの専門職に限られていた対象業務を順次、拡大するなど後押し。製造業で派遣労働者が増え、「派遣切り」が社会問題化した。

 厚生労働省の調査によると、95年に1001万人だった非正規は、15年に1980万人に急増。正規は3779万人から3313万人に減少している。時給は正社員が1921円なのに対し、派遣1351円、契約社員等1198円。

 政府は非正規の待遇を改善するため、職務や仕事内容が同じ労働者には同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の実現を目指すとしている。一方で、正社員は年功序列型や賞与など賃金体系が異なり、実現性を疑問視する声もある。


=2016/06/26付 西日本新聞朝刊=

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