託す~被災地から 採算のみの議論 戸惑い 運休続く南阿蘇鉄道運転士

西日本新聞

 マイカーを運転していてブレーキを踏むと、つい右手も動く。列車のブレーキは右手で操作するからだ。「職業病ってやつ。早く運転席に座りたい」。熊本県高森町と南阿蘇村を結ぶ第三セクター南阿蘇鉄道の運転士、内川聖司さん(61)は苦笑する。熊本地震の発生後、全線運休が続く。

 橋脚損傷や線路への土砂流入など被害は甚大だ。政府は28日、被害実態の調査費などを盛り込んだ熊本地震関連予算の使途を閣議で決めた。ただし、具体的財政支援の枠組みは未定だ。同社の2014年度経常損益は345万円の赤字。多額の自己負担を求められても、ない袖は振れない。

 旧国鉄の赤字ローカル線を引き継いだ三セク鉄道の多くは経営が苦しい。第三セクター鉄道等協議会(東京)によると、14年度は加盟35社のうち31社が経常赤字を計上。自治体が持ち出す公金に頼らざるを得ない状況にある。

 東日本大震災で被災した三陸鉄道(岩手県)は、国と県が復旧費を全額公費で賄い再開を果たした。一方、05年の台風被害で不通となった高千穂鉄道(宮崎県)は、支援を得られず廃線になった。明暗を分けた支援の線引きにはあいまいさも残る。国の借金は1千兆円超。多額の公費投入は「費用対効果」が一つの目安になる。三陸鉄道支援については「税金の無駄遣い」か否か、新聞の投書欄で賛否両論となった。

 南阿蘇鉄道の沿線は、高齢化と人口減少が同時に進む。採算性の物差しだけを当てられることに、内川さんは戸惑いを隠せない。春の野焼き、間伐、田植え、稲刈り…。中山間地に根差した暮らしが阿蘇の自然を守り、地下深くで涵養(かんよう)される豊富な水が都市生活を支える。年間25万の乗客を運ぶ運転士にも「地域を支えてきた」との自負がある。

=2016/06/29付 西日本新聞朝刊=

PR

政治 アクセスランキング

PR

注目のテーマ