<41>「呼び戻し」土台 一杯の物語 大砲ラーメン(福岡県久留米市)

西日本新聞

香月均史さんは「来年は豚骨発祥80年。何かやりたいですね」と意気込む=福岡市博多区のKITTE博多店 拡大

香月均史さんは「来年は豚骨発祥80年。何かやりたいですね」と意気込む=福岡市博多区のKITTE博多店

福岡県久留米市通外町11の8。ラーメン600円。昔ラーメン650円。ギョーザ390円。年中無休。午前11時~午後9時。0942(33)6695。

 スープからは豚骨らしいにおいが漂う。とろりとした舌触り。口に豚骨の甘さが広がった。福岡県久留米市の「大砲ラーメン」は、久留米の特徴でもあるスープを継ぎ足しながら味に深みを出す「呼び戻し」製法にこだわっている。

 2代目の香月均史さん(58)によると、創業者で父親の昇さん(故人)は、姉婿が「南京千両」に触発されて戦後に始めた屋台で働いていた。南京千両は1937年に豚骨ラーメンを生み出して久留米を発祥の地にした屋台。後に続いた姉婿の店で技術を覚えた昇さんは53年、西鉄久留米駅近くに屋台を出した。

 1杯60円。初日は18杯売れた。頼りない船出だったが、腕っぷしが強かった昇さんは屋台街では頼りにされた。血気盛んな労働者や酔客のけんかににらみを利かせながら、本業も軌道に乗せていった。「おやじが働く傍で、道路にチョークで絵を描いて遊んでいた」。そう振り返る香月さんは屋台と共に育った。

 味も評判になった。久留米から広がったとされる呼び戻し製法。正確な起源は不明だが、大砲では香月さんが物心をつく前から取り入れられ、味の核を作っていた。商売は繁盛し、67年に店舗を構えた。ただ、香月さんは「店と家が同じ敷地。ラーメン屋の息子というのがコンプレックスでした」と言う。

 反動からか、クリエーティブな仕事に憧れた。大学ではデザインを学び、バンド活動にはまった。しかし、卒業間近になって両親が大病を患い、急きょ実家に戻った。

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 「最初は嫌々です。でもある人との出会いで変わった」。その人とはラーメン店「一風堂」(福岡市)の河原成美さん(63)。ラーメン店の概念を覆すおしゃれな店に触発され、伝統を現代的な感覚で広めたいと考えた。25歳の時、両親の復帰を機に飲食店のPRを手掛ける東京のデザイン事務所へ就職し、5年間の“異種修業”を経て2代目になった。

 BGM、内外装も一新した。父親にささげる「昔ラーメン」は大ヒット。伝統の製法を「呼び戻し」と名付けたのも香月さんだ。「一杯の裏に物語を作れる。ラーメンもクリエーティブな仕事になるんです」

 一方で「大砲」の味の核は守り続けている。「呼び戻しは、火加減など絶妙なタイミングが要求され、早くても習得に3年かかる」。社員に製法を伝授し、任せられるようになるまで支店は出さない。直営9店では、経験を積んだ職人がスープ作りを仕切っている。

 新たな挑戦ができるのはそんな伝統が土台にあるから。「おやじは最高の財産を残してくれた。今はラーメン屋に生まれたことを誇りに思っています」 (小川祥平)


=2016/07/07付 西日本新聞朝刊=

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