産後支援 活動広がれ 家事や家族の世話 多様に

西日本新聞

 出産後の女性をサポートする「産後ケア」。産後は、精神的に不安定になったり、赤ちゃんの世話で睡眠不足に陥ったりするなど、心身や日常生活の支援が不可欠だが、日本ではまだまだ認識が不足している。本人や家族を総合的に支援し、欧米では職業と認められている「産後ドゥーラ」の高橋雅子さん(33)=福岡市南区=に同行した。

 平日の午後2時ごろ、高橋さんは同市博多区の森和美さん(32)宅を訪れた。森さんは1カ月前に長男悠人ちゃんを出産したばかり。友人から「産後はすごく大変よ」と言われ、高橋さんに産前に相談していた。

 里帰り出産し、自宅に戻って間もなく、泣き続ける悠人ちゃんに手を取られ、飲みかけのペットボトルのふたが1時間半ほど閉められなかった。「こんな簡単なこともできないなんて。『大変』の意味を理解した」

 負担に感じていたのが、夫の分も含めた食事だった。高橋さんは手際よく料理を作っていく。味付けは薄めで、だしの味が中心だ。

 途中、寝ていた悠人ちゃんが泣きだし、森さんはおむつを替えた。森さん一人なら調理を中断するところだが、高橋さんがいることで少しの余裕が生まれる。「産後の状態に詳しい人が来てくれることでほっとする」。キッチンカウンターを挟んで、高橋さんと会話をしながら音楽を聴くのが、森さんの癒やしの時間。気の合う姉や妹が手伝いに来ているような雰囲気だ。

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 産後の支援については、産院による検診、保健師の自宅訪問、ベビーシッター、家事代行業などがあるが、それぞれ役割が異なる。

 一方、産後ドゥーラは「赤ちゃんの世話や家事が目的ではなく、産後のお母さんと家族を支えるのが仕事」(高橋さん)。ハンドマッサージなど母親のケア、赤ちゃんやきょうだい児の世話、家事など多様な役割をこなす。ドゥーラの語源はギリシャ語で「他の女性を支援する、経験豊かな女性」を意味する。

 高橋さんが登録する一般社団法人ドゥーラ協会(東京)は、研修を受け、試験や面談を経て合格した人を産後ドゥーラと認定。6月現在で199人に上る。料金は2時間5千円など、各自が設定する。ただ、活動地は関東に集中し、九州在住は2人。高橋さんは福岡県で唯一の産後ドゥーラで、4月から福岡市内を中心に活動を始めた。

 高橋さんは精神保健福祉士などの資格を持ち、かつては児童福祉施設や障害者支援施設でソーシャルワーカーとして働いていた。虐待死が0歳児に多いことから「お母さんが笑っている環境が、子どもにとっても一番」と産後支援に目を向けた。「地域や収入で産後ケアの格差がないよう、ネットワークや制度づくりを呼び掛けたい」と語る。

 ●行政サービス充実を 文京学院大市川香織准教授

 一般社団法人産前産後ケア推進協会代表で、文京学院大の市川香織准教授(助産学)に聞いた。

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 4月、東京都監察医務院などによる調査で、うつ病などで自殺した妊産婦(妊婦と産後1年以内の女性)が、東京23区で2005~14年の10年間に63人に上ると発表された。出産数に占める割合は10万人あたり8・5人となり、出血などによる妊産婦死亡率の約2倍に相当する。

 出産後は、妊娠中に活発に分泌されていた女性ホルモンが激減し、体内のホルモンバランスが乱れて情緒不安定になる。さらに、慣れない育児への不安や疲れ、周囲の理解不足などが重なり、産後うつを誘発する。このリスクは潜在的に誰もが抱えており、安心できる環境がホルモンの安定、心身の健康につながる。

 日本には「床上げ」といって、産後3週間~1カ月は母体をしっかり休める風習がある。だが、実際は産後1~3カ月が最も孤独でつらかったという母親は多い。心身の不調が戻らない中、頑張り過ぎてしまわないように、少なくとも3カ月間は周囲の丁寧な支援が必要だ。誰もが望めば産後ケアを受けられるよう、行政サービスを充実させ、母子を支えるために家族が育休取得や定時退社できる環境も整備していくべきだ。


=2016/07/26付 西日本新聞朝刊=

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