<森の声 風の音>(2)移住 仕事を作り役目果たす

西日本新聞

 NPO法人「五ケ瀬自然学校」(宮崎県五ケ瀬町)の木造事務所には、近くの鞍岡小学校が下校時間になると児童たちが集まってくる。庭でボール遊びをしたり、部屋で宿題をしたり。町が事業委託する「放課後子ども教室」だ。農作業など仕事に忙しい親に代わり夕方まで小学生を預かる。夏休み中は、朝8時から元気な声が響いている。

 子どもたちが「エージソン」と慕う同法人理事長の杉田英治(49)は、栃木県出身。東京でグラフィックデザイナーとして働く傍ら、アラスカの大河を冒険するなどして青年期を過ごし、2001年、34歳で家族と移住した。「ここは、好きなカヌーとスキーが両方楽しめる日本でも数少ない土地。十分に食えて、幸福感も味わっていますが苦労もあった」と振り返る。

 山の集落に、街の会社勤めのような仕事がないからだ。試行錯誤の末に行き着いたのが、得意なアウトドア体験を生かし、地域全体を自然学校として売り込んでいく発想だった。

 05年に同法人を設立。キャンプにカヌーや山登り、昆虫観察などを組み合わせた自然体験イベントを年間30回ほど手掛ける。昨年は県内外の小学生ら約600人が参加した。それだけではない。国の補助金を受けて3年前には農業生産法人も立ち上げた。

 放課後教室、自然学校、農業法人…。「仕事を自分でつくり出すイメージ。何でもやる覚悟がないとだめ」。そう語る杉田の下では移住した若者5人が働く。その一人で、京都から来た窪田和貴(23)は、隣の高千穂町で神社の宮司を務める祖父の後を継ぐのが目標。「ここは水も空気もうまい。不便を感じるのは好みのラーメン店がないことぐらい」と笑う。

 杉田が「仕事づくり」に熱心な背景には、将来をにらんだ思いもある。五ケ瀬町には全寮制の中高一貫校しか高校がなく、中学卒業後は子どもたちの多くが家を出る。将来、帰郷してほしいが、親はそれを口にしづらい。「戻ってこいとはっきり言えるモデルを何とかつくりたい」。高校生と中学生の息子を持つ杉田の切実な願いだ。

   ◇    ◇

 高千穂町も、移住者受け入れに力を入れる。町の移住促進事業を13年から担うのはNPO法人「一滴(いってき)の会」。不動産や工務店、飲食関係の店主らでつくる。「会のメンバーには電気工事や内装業者、トラック運転手もいる。移住後も困り事があれば相談に応じられるのが強みです」。自らも移住者で、昨年4月から事務局長を務める川上昇(40)は胸を張る。

 空き家を登録して希望者に紹介する空き家バンクも手掛け、川上は7件の契約にかかわった。だが、定年退職後の移住はハードルが高いと感じている。60代夫婦の移住者が昨年秋、わずか1年ほどで高千穂を離れた。移住先の集落になじめなかったことなどが影響したようだという。

 「地域での役目を果たすことが移住の条件です」。草刈りや側溝の掃除、神楽や祭りへの参加-。移住希望者に川上は、あえてそれを求めている。「郷に入っては郷に従え。地域に溶け込んでこそ、移住ライフも豊かになると思う」

(敬称略)

=2016/07/27付 西日本新聞朝刊=

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