<森の声 風の音>(3)伝承 精神の豊かさ心地よい

西日本新聞

 作業場の天井から、黒光りする「いりこかご」がつり下げられている。冷蔵庫のない時代、海辺から奥深く入った山里では、貴重品のいりこを、軒下につるした籠で大切に保管した。

 「猫に食べられないように密閉され、腐らないように風通しが良い。機能的で美しい生活用具でしょう」

 峰が重なり合うように取り囲む宮崎県日之影町七折に、わずか18世帯の中村集落がある。町でただ一人となった竹細工の専業職人、小川鉄平(40)。その魅力について語りながら、青竹の香りがほのかに漂う自宅兼作業場で、休むことなく手を動かす。作業場には「かるい」と呼ばれる伝統的な背負い籠から、現代風のハンドバッグまでさまざまな製品が並ぶ。

 「竹以外は一切使わないのが、日之影流」。仕上げに用具の縁を巻き込む縁巻きであろうと、持ち手であろうと、竹のみで仕上げる。柔軟さや強度など製品に合った竹の種類を選び、一本一本最適の太さに削り、それを一目一目、丁寧に編み込んでいく。根気のいる手仕事だ。

 名古屋市出身の小川は、日之影町で暮らしてはや15年。全国を旅した25歳のバックパッカーは、ある本で見た日之影の竹細工にほれ込み、地元の職人に弟子入りした。

 「繊細な技が織り込まれた竹細工を見ていると、先人たちの暮らしぶりまで目に浮かぶようです」。安価なプラスチックの籠やザルが出回り、竹細工は決して必需品ではない。「だけど、プラスチック製品からは感じ取れない精神的な豊かさが心地よい」

 深い山に引き寄せられるように生活する人たち。同県椎葉村不土野の日当集落で昨春から暮らし始めた青木優花(39)もその一人。好きな言葉は「のさらん福は願い申さん(いただける以上のものは望まない)」。縄文時代から続くとされる椎葉の「焼き畑」の精神を表した言葉という。

 毎年夏に場所を変えながら山を焼く。農薬、肥料を使わず、最初は草木灰でソバを、2年目にヒエやアワ、3年目にアズキ、4年目にダイズを育てた後、山に戻す。数十年をかけて地力の回復を待つ伝統農法だ。

 青木は、標高750メートルの一軒家で1人暮らしを満喫する。台所に並ぶ手作りのみそ、酢、梅干しなどを入れた幾つもの小瓶から、丁寧な暮らしぶりがうかがえる。

 広島市出身。効率性のみを追求した現代の生活に違和感を抱き、3年前から全国の山を旅して、昨年、椎葉にたどり着いた。1カ月の生活費は車のガソリン代や家賃などで約2万円。近所の農家や民宿を手伝い、山菜を摘む。地域の人々と助け合って生活を営んでいる。

 「互いに支え合い、自然に感謝して、必要なものを少しだけいただく。それでいいんです」。追い求めたのは、太古の昔から連綿と続いてきた本来の人間の生きようだったのか。

 今年も焼き畑に火入れする季節がやってくる。昨年同様、作業のお手伝いに駆け付けるつもりだ。

(敬称略)

=2016/07/28付 西日本新聞朝刊=

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ