相模原殺傷事件を考える<下>識者に聞く 藤井克徳さん 野林 信行さん

西日本新聞

 相模原市の知的障害者施設で先月、入居者19人が殺害された事件。背景に何があるのか、私たちはこの事件をどう受け止め、何をしていくべきなのか。日本障害者協議会代表の藤井克徳さん(67)=東京=と、「福岡市に障がい者差別禁止条例をつくる会」メンバー、野林信行弁護士(50)=福岡市=に聞いた。

 ●政策上の盲点なかったか 日本障害者協議会代表 藤井克徳さん

 ナチス政権下、ドイツでは「T4作戦」などによって20万人以上の障害者が虐殺された。働けない者、兵士になれない者は「価値なき生命」と判断され、ガス室に送り込まれて“安楽死”させられた。この作戦は、後のユダヤ人大虐殺につながっていった。

 事件の容疑者の手紙の内容は、このナチスの優生思想そのものではないか‐。昨年、ドイツの現場に調査に降り立ったときに感じた背筋が凍るような恐怖がよみがえり、70年以上前の悲劇が時間と空間を超えて今につながっている恐ろしさを感じた。障害者の人権のために、少しずつ積み上げてきたものが、音を立てて崩れていくような思いだ。

 全国の障害者は、容疑者の言葉によって心に深い傷を負い、「同調する人が出てくるのではないか」と不安を感じている。事件の背景に、政策上の盲点はなかったか、きちんと検証していかなければならない。

 事件は、多くの人が集団生活する入所施設で起こった。日本では1960年代、財政効率化のため障害者を集めて生活させる政策が始まった。しかし、先進国のほとんどは、施設から地域へ、が主流。もし分散していれば、今回の悲劇は起こらなかっただろう。

 市場原理主義を追い求める風潮が強まり、障害福祉分野でも、職員の非正規化など規制緩和が進んだ。低賃金と厳しい労働条件の中、働き手が不足し、施設側は適性に疑問が残っても雇わざるを得ない状況。人数がぎりぎりのため、若手への指導もままならない。

 疲弊しきった現場では、意思の疎通が難しい重度の障害者に、敵対心を抱くことも起こりうる。障害者に対する虐待は後を絶たず、厳しい労働環境と無縁だとは思えない。日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも障害福祉分野への予算分配率が極めて低く、見直すべきだ。

 犠牲者の名前が公表されていない点も、「障害者は特別扱い」という差別的な発想につながるのではと懸念している。亡くなった人の生い立ちや人となりを知ることで、哀悼の気持ちが深まる。障害がない人と同じ扱いにされるべきだ。

 ●社会の不備が「障害」生む 福岡市に障がい者差別禁止条例をつくる会 野林 信行さん

 誰にも人間としての尊厳や生きる権利がある-。私たちは事件を機に再確認し、毅然(きぜん)とした態度で容疑者の身勝手な主張を否定しなければいけない。

 「障害」の捉え方は変化している。心身の機能障害があるから障害が生じるのではなく、社会の環境が整備されていないから障害となるのだ。例えば、車いすの人が2階の店に行くのにエレベーターがあったり、店員が車いすを抱え上げたりすれば、障害がない人と同じ機会が得られ、障害はなくなる。

 社会が積極的に障壁を取り除き、環境を整えていこうというのが、国際的な常識だ。4月施行の障害者差別解消法も同じ考え方に立っている。

 もし障害者の家族が疲れて見えるなら、社会がそうさせている。出生前診断で染色体異常があると確定した妊婦の9割が中絶を選んでいるのは、障害があると生きづらい社会だからだ。変わるべきは社会だ。

 事件の背景はこれから明らかにしなければならないが、報道で知る限り、容疑者に深い思想があったとは思えない。仕事がうまくいかないストレスを、障害者に責任転嫁した短絡的な逆恨みのようなものに思える。いわゆる弱者いじめだ。

 「生産性がないから、社会に貢献していないから、生きる価値がない」という主張は、自らの首を絞める発言でもある。生産合理性だけを追求する社会は非人間的な社会だ。エリートじゃなければ生きる価値がない社会で、あなたは幸せだろうか。


=2016/08/03付 西日本新聞朝刊=

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