<43>ペンをざるに持ち替え41年 一平ラーメン(福岡市早良区)

西日本新聞

鍋の前に立つ坂本一誠さん。店名の「一平」は開業当時の大家が占いで決めてくれたという 拡大

鍋の前に立つ坂本一誠さん。店名の「一平」は開業当時の大家が占いで決めてくれたという

福岡市早良区小田部2の1の24。ラーメン450円、チャーシューメン650円。午前11時~午後6時半。定休日は火曜。092(841)4134。

 「どこの省庁回りですか?」。名刺を渡し、東京勤務と伝えると意外な問いを返された。そんなことを聞くのは同業者かお役人くらい。こちらの戸惑いを察知したのだろう。店主の坂本一誠さん(81)は笑いながら言った。「私も新聞記者だったんですよ」

 福岡市早良区の「一平ラーメン」の創業は1975年。昭和の雰囲気を残す店内で無駄なく仕事をこなす姿はいかにも職人で、元記者とは想像もつかない。同業の先輩ゆえ、少し緊張しつつ、人生を振り返ってもらった。

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 大分県宇佐市生まれ。大分大を卒業後、日刊工業新聞社に就職した。東京本社で政治、経済を中心に担当し、省庁、企業と取材に駆け回った。当時、競合紙の記者仲間には元首相の森喜朗さん(79)もいた。

 私生活は、まさに「昔かたぎの記者」の典型。徹夜マージャンは当たり前で、毎日浴びるほど酒を飲んだ。「記者クラブではマージャンの強さで有名だった。あの生活を続けていたら、今頃生きていなかったかも」と冗談交じりに語る。

 転機は74年。福岡市に転勤になり、人生を見つめ直した。「今後も全国に転勤がある。長男として両親の面倒もみらないかん」。さらに当時は第1次「脱サラ」ブーム。時流にも後押しされ、翌年会社を辞めた。未知の世界、ラーメンを選んだのは「これまでの経験を土台にするとおごりが出て失敗すると思った」から。市内の店で45日間修業し、第二の人生をスタートした。

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 「灯油のバーナーで長時間豚骨を炊いています。火力が圧倒的に強いからですね」

 そう話す坂本さんから丼を受け取った。黄土色のスープは、脂も溶け込んでいて、いかにも濃厚そう。口に含むと見た目にたがわず濃い。元だれも強いが、派手なわけではない。ワイルドながらどこか懐かしい味わいだ。

 「相手は『骨』。取材とはわけが違う。自信を持てたのは10年やってからですよ」。以来、景気の変動、ラーメン人気の盛衰もあったが、自分のやり方を貫き通した。気付けば人生の半分をラーメンとともに歩んでいた。

 味だけでなく値段にもこだわる。1杯450円。ワンコインでおつりが来るのは今どき珍しい。「庶民の食べ物は安くなきゃいけない。子ども4人は独立して、今は夫婦2人が生活できればいい。だからできる価格設定ですよ」と語る。

 「記者とラーメン作りどっちが楽しいですか?」。最後にそう質問すると坂本さんは即答した。「それは今やっている仕事。でも、すぐに懐に飛び込んでお客さんと会話をする。そこは記者の経験が生きてます」 (小川祥平)


=2016/08/04付 西日本新聞朝刊=

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