山の日 林業 若者じわり増 就業訓練や給付金が後押し

西日本新聞

 今日は「山の日」。山を守り育てる林業は3K(きつい、汚い、危険)といわれてきたが、近年は若年層の担い手がじわりと増え、30~40代が他産業から転職するケースも目立つ。なぜ今、林業なのか。新規就業者の育成へ、大分県由布市で4月に開講した「林業アカデミー」を訪ねた。

 チェーンソーが大きな音を上げて丸太を切り進む。立木に見立てた丸太を東側に倒したいのに、途中で縦に裂けて切り落とせない。「思い通りにいかない」。室橋春樹さん(43)は噴き出す汗をぬぐった。

 アカデミーは、県の助成を受けて公益財団法人森林(もり)ネットおおいた(大分市)が運営する。1期生は室橋さんら18~44歳の10人。林業の知識と技術を1年間かけてゼロから学ぶ。この日は由布市の研修施設で、チェーンソーの扱いや伐採の手順を訓練した。

 室橋さんは20年間勤めた会社を3月に辞め、神奈川県鎌倉市から縁もゆかりもない大分へ移住した。
 営業職時代は毎晩11時を回って帰宅し、看護師の妻と食事するのは休日だけ。「夫婦の時間をもっと大切にしたい」という思いと、「定年まで同じことをやるより、新しいことをやってみたい」。働きづめの室橋さんを心配していた妻は、「失敗してもいいよ」と背中を押してくれた。

 元看護師の古庄正和さん(36)=大分県竹田市=も「家族との時間」が転職の理由。昨年、息子が生まれて意識が変わった。息子と妻が熱を出して休暇を取ったとき、上司にとがめられたのが“最後の一押し”となった。

 今は日没とともに帰り、親子で風呂に入る。息子は毛のある物を「わんわん」と覚えて、古庄さんの足を見ても「わんわん」。一日一日の成長をかみしめる。

 室橋さんが未経験の林業を選んだのは、「自然」や「職人」への憧れがあったからだ。経済的には不安だったが、研修中は国の「就業準備給付金」(月12万5千円)が支給される。自分の土地が必要な農業と異なり、森林組合や会社に就職できる点も大きかった。

 林業は他産業に比べて求人倍率が高い。背景には、全国の人工林が伐採期を迎えていることがある。

 日本の森林は、戦中から戦後の木材需要で大量伐採され荒廃した。山地災害が増えたほか、経済成長に多量の木材が必要と見込まれたことから、1950年前後からスギやヒノキなどの造林が進められた。55年の林業従事者数は全国で約52万人に上ったが、輸入材が増え、その後50年間で約5万人に減った。

 伐採期に入った森林資源を更新し、将来の安定供給や国土保全につなげるには人材が必要だ。林野庁は2003年度に「緑の雇用事業」を始め、13年度に同給付金を設けるなど担い手を育ててきた。事業による定着率は7割を超え、従事者数が増加に転じて約7万人(10年)に。35歳未満の割合も18%(同)に増えて若返りが進んでいる。

 大分県などでは苗木生産や造林の方法を工夫し、70~80年かかっていた伐採期までのサイクルの短縮に取り組む。それでも50年。室橋さんはそこに「ロマン」を感じる。「僕が生まれる前に先輩が植えた木を切らせてもらい、僕が植える木は50年先の後輩が切る」。自然の営みの一部を担っている感覚だという。

 一方の古庄さんは、林業への誇りが芽生えてきた。「木を売ってもうけるだけじゃなく、空気や水を守り、災害を防いで社会の役に立っている」

 山の恵みを自分から次の世代に受け渡す。林業は今、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)や地域への貢献を大切にする人々にとって、新たな働き方の選択肢となっている。


=2016/08/11付 西日本新聞朝刊=

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