事業所内保育所 拡充へ 補助金増、自治体の審査なし 質の担保が課題

西日本新聞

 待機児童解消に向け、政府は本年度、新たに「企業主導型保育事業」を始めた。企業が従業員向けにつくる事業所内保育所に対し、認可保育所並みの補助金を出す上、市区町村が関与しないためスピーディーに設置できるのが特長だ。今月末には、開設申請があった企業に補助金の支給決定が出される予定。待機児童対策の「切り札」となるか、注目が集まる。

 東京・新宿駅から私鉄で約30分。東京都三鷹市の三鷹台駅前に先月、「めばえ保育ルーム三鷹台」が開所した。婚活支援サービスの「パートナーエージェント」(東京都品川区)が設置し、現在、企業主導型保育事業として申請中だ。同社保育園開設室の長岡まりさん(61)は「若い社員が多く、保育所に入れずに育休を延長する例も少なくなかった。長く働いてもらえる環境を整えようと、昨年から準備を進めていた」と話す。

 とはいえ、社員約330人の会社で、安定的に園児を確保するのは難しい。そこで取引先約30社と提携し、その企業の従業員の子どもも預かることにした。同社は、新事業の特徴である「地域枠」も設けており、この保育所には(1)同社の従業員(2)提携企業の従業員(3)地域-の子どもが通う。複数企業との共同設置の場合、負担金を求める例が一般的だが、同社はむしろ地域枠より保育料を月1万円安くすることで提携先を増やした。

 保育所の場所も、当初はオフィスの近くを想定していたが、「通勤ラッシュに子連れは厳しい」と、従業員の利用が多かった沿線の駅前に変更。定員18人の半数が地域枠だが、それもほぼ満員になり、0歳児は20人が待機しているという。

 厚生労働省によると、事業所内保育所は昨年3月現在で全国に4593カ所あり、約7万4千人が利用している。

 事業所内保育所に対しては、以前から補助制度はあった。ただし、施設整備費の3分の1(中小企業は3分の2)、運営費は10年間の期限付きで子ども1人につき年34万円(同45万円)で、企業の負担が大きいため、参入のハードルが高かった。

 新事業では、施設整備費の4分の3が補助される。運営費も無期限で、企業負担分の5%と利用者負担分を除いた金額が補助される。財源は、企業などが負担する「事業主拠出金」。この事業に計835億円を投じ、来年度までの2年間で保育定員5万人増を目指す。

 保育料は企業によって差が大きかったが、新事業は「必要以上に高額にしてはならない」と定め、認可並みの月3万~4万円程度を想定している。

 内閣府によると、企業の関心は高く、5月から行っている制度説明会は毎回満員。一次締め切りの6月末までに約300施設が開設を申請しており、6千人程度の定員拡大を見込む。

 認可保育所の増設が追いつかない中、企業による積極的な動きを歓迎する一方、親たちからは不安の声も漏れる。

 認可の場合、開設の際は市区町村と都道府県から審査を受けるが、企業主導型は「児童育成協会」に書類を提出して承認されれば、都道府県に届けるだけで済む。保育士の有資格者も職員の半数でよく、指導・監督は協会と都道府県が行うことになっているが、具体的なチェック体制の構築はこれからだ。

 3月には、ベテラン保育士の配置が手薄だった東京都内の事業所内保育所で、1歳2カ月の男児が昼寝中に死亡する事故が起こった。保育園を考える親の会の普光院(ふこういん)亜紀代表は「新制度は、保育の質を担保する仕組みが脆弱(ぜいじゃく)。大切な命を守れるように改善してほしい」と訴える。

 事業所内保育所を中心に約200カ所の保育所運営を手掛けるテノ.コーポレーション(福岡市)の池内比呂子社長は、新事業が「質の改善」に効果的だと歓迎する。「認可並みの補助金が出ることで、保育士の待遇は大きく改善される。保育士が集まりやすくなり、事故リスク減や保育内容の充実につながる」と期待を込める。


=2016/08/19付 西日本新聞朝刊=

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