特別支援学校での人権侵害考える 福岡でシンポ 長瀬慎一さん 笠原嘉治さん

西日本新聞

 特別支援学校・学級での子どもや親に対する人権侵害を考えるシンポジウムが今月上旬、福岡県大野城市であった。さまざまな障害や特性に合わせた個別の指導が求められる場だが、発達障害児・者を支援するNPO法人「さるく」(福岡市)によると、教員の不適切な指導が後を絶たないという。シンポを主催した「さるく」代表の長瀬慎一さん(51)と、パネリストの一人として参加した福岡市人権啓発推進指導員、笠原嘉治さん(62)に実態と対策を語ってもらった。

 ●資質欠如の教員は懲罰を NPO法人代表 長瀬慎一さん

 知的・発達障害児の支援に関わり30年になる。こうした子どもたちや親から「教員の人権侵害を改善してほしい」との依頼が年々増えている。

 ここでいう人権侵害とは特別支援教育の専門性が極端に欠如し、経験が不足している事例だ。教員としての資質さえ疑わざるを得ない、一般社会なら処罰の対象になるようなレベルだ。

 実例を挙げたい。(1)トイレに行きたいと言えない小3女児が失禁してしまった。教員は叱責(しっせき)した後、下着をはかせないまま数時間放置した(2)同級生にいじめられトイレで泣いていた小4男児に、教員は「あなたがそんなことだからいじめられるのよ」と言い放った。

 教育委員会に申し立てをしても「学校長の判断に任せている」と門前払いにされ、学校に行っても「一民間NPOが学校教育に不当に介入してきた」と出入り禁止にする所さえある。

 特別支援教育の現場で起こった人権侵害は発達障害のある子ども側のせいにされ、謝罪もなく、見過ごされ、隠蔽(いんぺい)され続けている。

 文部科学省で特別支援教育の枠組みを作った柘植(つげ)雅義筑波大教授は著書「特別支援教育-多様なニーズへの挑戦」(中公新書)で、子どもの「ニーズ」を把握し「サイエンス」に基づく教育を施し、学校内外との連携「パートナーシップ」が必要だと説いている。公務員である教員が国の定めた教育に関わる施策を順守しなくても何の懲罰も受けない現状は、一刻も早く改善されなければならない。

 ▼ながせ・しんいち 上越教育大大学院修士課程修了。障害児教育専攻。慶応大大学院社会学研究科心理学専攻研究員などを経てNPO法人「さるく」代表。

 ●問題ある指導の把握必要 福岡市人権啓発推進指導員 笠原嘉治さん

 長瀬さんが指摘するような「不適切な言動」などがあったとすれば子どもの将来は厳しいものになる。たとえ一件でも許されない。

 教員の専門性は(1)子どもの特性や状況を受容し、願いを理解できる「感性」(2)教材と活動の構成を工夫できる「専門的知識」(3)しなやかさを持ち、困難な状況を乗り越えようとする「姿勢」。これらを備えた人材の育成が解決策の一つであり、組織的な取り組みと専門性を高める研修を一層充実させることが重要だ。

 福岡市では、全小中学校への特別支援学級の設置を進めてきた。専門性のある教員の育成を促し、管理職・教員の異校種人事交流を盛んにすることによって特別支援教育の経験者を増やすことを目指してきた。

 指導に問題があるとの指摘については当然、事実関係の把握と適切な対応、学校現場への指導が求められる。大切なのは、保護者と学校が子どものために相手の意見や状況を理解し合い、お互い何ができるのかを考えることだ。そんな経験が教員にとってプラスとなり、専門性を高めることにもつながるはずである。

 障害の特性や、さまざまな理由で生きづらさを感じている子どもたちは、特性に応じた適切な支援によって自分らしさを発揮できる。先日、80代の保護者が「この子が自立できるまでは死ぬに死ねない」と話していた。子どもたちに卒業まで身に付けさせるべき力とは何か。教員の皆さんは真摯(しんし)に考え、日々の実践に努めてほしい。

 ▼かさはら・よしはる 福岡市教委人権同和教育部主任指導主事、警固小学校長、発達教育センター所長などを経て現在、同市人権啓発推進指導員。


=2016/08/25付 西日本新聞朝刊=

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