<45>「日本一うまい店」は実在か 丸幸ラーメンセンター(佐賀県基山町)

西日本新聞

「父と一緒にいるのが好きで、子どもの頃からラーメンづくりをそばで見ていました」と振り返る原口春美さん 拡大

「父と一緒にいるのが好きで、子どもの頃からラーメンづくりをそばで見ていました」と振り返る原口春美さん

佐賀県基山町小倉1642。ラーメン420円。焼きめし530円。午前9時~午後11時半(オーダーストップ)。定休日は火曜。0942(92)2855。

 日本一のラーメン店は佐賀県にある? 長崎県佐世保市ゆかりの作家、井上光晴さん(1926~92)はラーメン好きを自任し、かつて小説の中で「日本で1番おいしい店」について語っていた。店名は「山田」。そのモデルは佐賀県基山町にある「丸幸ラーメンセンター」と考えられているが、いかに-。

 井上さんが83~86年に連載した長編「連行寺達雄の告白」のある場面。ラーメン・パパと呼ばれる男が、喫茶店でうんちくを傾けている。そこで聴衆の一人から「日本で一番うまい店を教えてほしい」と尋ねられ、こう答える。

 〈九州の博多から久留米に向かう国道があるんだ。久留米の手前に鳥栖という長崎本線に分かれる駅があってね、その手前に原田という駅がある。此処(ここ)で筑豊の方に乗り換える。その原田と鳥栖の中間にトラック野郎の群がるドライブ・インがある。山田という普通の名前。これが七つ星。第一等の南十字星ですね。断言できます〉

 実際に国道3号を車で走ってみると小説の通りだった。JR原田駅から鳥栖方面に数キロ行ったところで大きな看板が目に飛び込んでくる。道の両脇にある駐車場にはトラックも多い。井上さんは「文学伝習所」を長崎、佐賀、筑豊などに開設しており、この付近を通っていてもおかしくない。

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 オーナーの原口春美さん(57)に話を聞いた。創業は52年。父親の幸春さんが福岡県久留米市に「幸陽軒」を開いた。「食い道楽の父でした」。最初は苦戦。だが幸春さんは、知人の黒岩文雄さん、義弟の八郷清孝さんとともに味に改良を重ねて軌道に乗せた。

 65年、基山町に丸幸の屋号で支店を構えた。交通量の増加とともに店は大繁盛し、74年には「人手が足りない」と本店を閉めて一本化した。ちなみに黒岩さんは丸幸出店後に独立して久留米市で「大龍ラーメン」を創業している。

 「父や黒岩さん、八郷さんが作りあげた味を守りたい」と語る原口さん。白濁スープはまろやかな口当たりで、元だれの塩加減もちょうど良く、後味もすっきり。万人に受ける味わいだと感じた。

 場所や状況は一致。味も申し分ない。ただ、原口さんは「井上さんが来ていたかは分かりません。一声かけていただければよかったのに」と残念がる。井上さんの長女で作家の井上荒野(あれの)さん(55)も「確かに父はラーメンが好きだった。でも『山田』のモデルは聞いたことないです」。

 結局、「山田=丸幸」という確証は得られなかった。ただ、取材中も多くの家族連れ、ドライバーたちが訪れ、おいしそうにラーメンをすすっていた。 (小川祥平)


=2016/09/01付 西日本新聞朝刊=

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