【聴診記】低料金の介護・入居施設だが

西日本新聞

 6畳の部屋が天井からベニヤ板で半分に仕切られ、3畳の部屋二つになっている。その3畳部屋一つが高齢者1人の個室になっており、ベッドやポータブルトイレ、衣装ケースなどが置かれ、立って動けるスペースはほとんどない‐。知り合いのAさんが、そんな説明をした上で「極めて居住性が悪い高齢者施設。入所者の口腔(こうくう)ケアやおむつ交換もできていない」と話すのを聞き、取材に着手した。

 場所は福岡県糸島市内。3階建て集合住宅の一部がその施設だった。だが運営する業者側に取材を断られ、施設の中をうかがったり、入所者に話を聞いたりすることはできなかった。

 Aさんなどによると、この集合住宅は築40年以上。3DKの物件が各階に5戸あり、うち1階の4戸を使って高齢者向けの「低料金の介護・入居施設」が展開されている。

 糸島市もこの施設を把握。「適切なケアがされていない」との通報があり、6月下旬から7月上旬にかけて調査したのだという。

 市によると、この施設は2013年にオープン。調査時の入所者は高齢者13人で、うち11人が要支援1~要介護4。残り2人は不明。全員が、施設と同じ業者が運営する近くのデイサービスに毎日通い、朝から夕方まで滞在。デイサービスで入浴、3度の食事を済ませており、施設で過ごすのは夜間だけという。6畳部屋を二つに分けて使っているのも一例確認した。

 利用料は月6万円。食費、家賃、おむつ代に加え、介護保険で利用するデイサービスの自己負担分も含めた額という。これなら低年金など収入の少ない人でも入所可能。業者側はデイサービスでの介護報酬が入ってくるので経営的にやっていけるということか。

 ただ入所者13人で夜間に見守るスタッフは1人。市は「介護の知識がないスタッフが見守っている例がある」と問題視。入所者が夜に転倒して、体にあざをつくった例もあったとしており、業者側に(1)スタッフに対し介護に関する研修をする(2)虐待防止や認知症ケアのマニュアルを用意する-ことなどを求めている。

 さらに福岡県も「おむつ交換という介護サービスを提供しているので有料老人ホームに当たる」と判断し、老人福祉法に基づいて有料老人ホームの届け出をするよう指導している。

 ただ業者側がこれに従って届け出をすれば、原則として個室の床面積を13平方メートル以上にすることなどが県の設置運営指導指針に基づいて求められ、その対応で経費がかかり、利用料を値上げせざるを得ない事態が起きかねないのではないか。そのとき、低年金などの入所者は利用料の支払いができなくなり、退所となる恐れもある。

 市によると、入所者側からは「少ない年金で暮らせるのはこの施設だけ」「自宅で一緒に暮らしていた家族に負担を掛け、申し訳なく思っていたので、こちらの方が気が楽」などの声が出ており、別の場所で暮らしたいとの希望は聞かれないという。

 また低年金ならば、生活保護を受けた方が暮らし向きはよくなりそうだが、何らかの事情でそれもままならないようだ。市によれば、一例として、「資産」があるため生活保護を受けるのが難しいケースがある。「資産」とは持ち家のことで家族が暮らすため処分できないのだ。

 低年金、公的介護施設の不足、家族崩壊…この施設は「現代ニッポン」のさまざまな問題を投げかけている気がする。

    ◇   ◇

 この施設の運営業者は2日現在、糸島市の求めに対し、どう対応するか回答していない。県へ有料老人ホームの届け出もしていない。


=2016/09/03付 西日本新聞朝刊=

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