【生きる 働く 第13部】老いの支え手 支えるには<5完>柴垣竹生さん 田中知宏さん

西日本新聞

 超高齢社会で急増が見込まれる介護需要。その支え手となる介護人材を支えるには、何が必要なのだろうか。介護保険制度に詳しい浜銀総合研究所(横浜市)の田中知宏さん(38)と、医療介護サービスを展開する株式会社ソラスト(東京)の柴垣竹生さん(50)に聞いた。

 ●職員自らが魅力を語ろう

 ▼株式会社ソラスト渉外室長 柴垣竹生さん

 10年ほど前から、社内のほか、業界団体の一員として社外向けに人材育成研修を開いてきた。当初は、施設長向けの研修で「人材を集めるにはどうしたらいいか」と尋ねると、とにかく「賃金アップ」という意見だった。しかし今では「賃金だけでは人材は定着しない」と言う人が増えた。低賃金の改善は重要だが、それ以外にも「人材確保のために何かしなければならない」と現場は気付き始めている。

 介護は、利用者の健康状態から家族構成まで知り尽くし、その人と深く関わる高度なサービス業。だからこそ意義もやりがいもある仕事なのに、世間からはきつい、給料が少ない、汚いの「3K」職場と見られがちだ。どんな仕事にも探せば「K」は三つくらいある。前向きな要素が山ほどあるのに、周囲からの悪いイメージに、現場が“打たれ負け”し、自己評価まで下げている印象だ。

 若手向けの研修で、ある男性が仕事の魅力を「その日その日で最善を尽くす、“一日が一生”」と素晴らしい表現をした。ただ、そんな思いを職場内で語り合う機会は少ない。その一歩から始めてほしい。仕事の自己評価を上げることにつながるだろう。

 さらに、その価値を国民、地域に向けて発信すべきだ。介護保険の給付を受けるのは高齢者の2割弱。多くの人が医療サービスを利用する健康保険と違い、財源確保への理解が得られにくいため、発信することで「介護は保険料を払うだけの価値がある」と認識してもらわなければならない。地域で「介護保険の上手な使い方」講座を開いて介護職が思いを語るなど、やり方はなんでもよい。社会的評価を上げることで、介護を目指す人が増えるという好循環も生まれるはずだ。

 ●財源支える仕組み議論を

 ▼浜銀総研地域戦略研究部主任研究員 田中知宏さん

 介護職は「人材不足」と叫ばれる一方、現場の声を集めてみると、経営者の創意工夫で職員の高い定着率を誇る事業所もあり、二極化している。

 介護保険制度導入から16年、業界は淘汰の時代に入った。質の高い介護を提供できる事業所が規模を拡大し、人材不足でそれができない事業所は閉鎖を余儀なくされるだろう。介護業界は、介護保険制度でサービス単価が設定され、安売り競争に巻き込まれない業界であり、他産業と比べ安定している。事業者は腰を据えて保険外サービスをする、業務を効率化するなど、経営や人材管理の能力をもっと磨かなければならない。

 国にも取り組むべきことがある。団塊世代全てが後期高齢者になる2025年度に注目が集まっているが、団塊ジュニア世代が高齢者になる40年代は、支える現役世代がもっと少ないので、さらに深刻だ。国が衰退しないためには、持続可能性のある介護保険制度の原型を、第一波となる25年度までに作れるかどうかが鍵となる。

 今後、給付抑制の手段として、軽い介護サービスは自治体に任せ、介護保険では専門性の高い介護をするという流れが加速するだろう。現在の介護職は後者の現場で、中重度の要介護者をケアするようになる。国は、それに適正な報酬を払える仕組みを整えなければならない。

 また、介護保険の財源構造は公費と保険料が半々で、公費の半分は国庫から賄われるため、公共事業のように地域経済に寄与する役割もある。自治体が介護を地場産業と位置付け、介護職や事業者を応援する仕組みをつくってもいいのではないか。

 消費税増税による、介護保険の財源確保への理解も国民に必要だ。財源を下支えすることが、介護職を支えることにつながる。 =おわり


=2016/09/03付 西日本新聞朝刊=

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ