【耕運記】自然回帰を味わうワイン 造り手の生き方重ねて

西日本新聞

 最近、耳慣れないワインの人気がじわりと広がっているらしい。「ヴァン・ナチュール」。自然派ワインと呼ばれる。

 人為的な介入を避け、自然に任せた造り方のワイン。例えば醸造用の酵母に頼らず、ブドウや畑にいる天然酵母で発酵させる。ろ過はせず、酸化防止剤もできるだけ少なく。その結果、生産地ならではのブドウと酵母が醸す個性豊かなワインとなる、という。

 「存在感が違う。こんなワインに寄り添うのはどんなパンだろう」。自然派ワインと出合い、長年の流儀を変えたパン職人、安原太路さん(41)が振り返る。

 ホテルで修業後、福岡市中央区大手門に店を構えた。初めて自然派を味わったのは2年ほど前、近所の飲食店だった。とことん調べ、効率を排除した造り方に衝撃を受ける。自分の作業に置き換え、生地をこねるのをやめた。酵母にストレスを与えて無理に発酵を促す方法だと考えたからだ。小麦は自然農法に取り組む佐賀県の野菜農家に委託した。培養された酵母の代わりに果物由来など天然の酵母にし「粉との相性や機嫌を確かめ自然な発酵を心掛けた」

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 1980年代、世界的なワインブームもあってフランスでは国を挙げて大量生産体制に流れたという。農薬や化学肥料、人工酵母を用いるそうした現代的製造法に疑問を抱き伝統にこだわる生産者が現れ、90年代以降に増加した。自然派の要素である有機栽培の畑は現在7%を占めるという。

 「日本は90年代後半から自然派の輸入が増え、今や世界でも最大規模の輸入国」。2010年から毎年開かれている自然派ワインを楽しむイベント「FESTIVIN(フェスティバン)」事務局(東京)を務める輸入元の社員、新沢琢(たく)さん(42)が説明する。

 難点もある。品質が安定せず、温度や振動の影響を受けやすい。「自然派」の明確な定義がないことも消費者には分かりにくい。法律に基づく認証制度がある「オーガニックワイン」は化学肥料を3年以上使っていない畑で育てたブドウを原料とする、といった規定があるが、自然派ワインには欧州の生産者団体ごとの取り決めがあるだけ。「ビオワイン」と呼ばれるよく似た製法のワインもあり、呼称は人により異なる。

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 自然派ワインを01年ごろから扱う福岡市博多区のとどろき酒店社長、轟木渡さん(44)は「飲み心地の良さ」が魅力と言い、飲食店向けの試飲会を開くなど積極的に展開する。福岡市で提供店が増えており、その理由を「食材を重視する店が多く、そんな料理に相性がいいからでは」と分析する。

 安原さんに自然派を薦めた市村大輔さん(37)もそうした店を営む一人。フランス料理の修業を経てダイニングバーを開いた。4年前に渡仏し「伝説」と呼ばれるワイン農家と出会う。栽培技術を超えて自然と共に暮らす姿に心打たれた。ブドウと酵母を信じ、発酵を待つ。ワイン造りは生き方に通じると実感した。

 帰国後は、生産地に足を運び食材を選ぶようになった。食材の個性をくみ取り、食べる人にどう伝えるかを考えて調理する。「素材の個性を生かす姿勢は自然派ワインと同じです」

 造り手の生き方というストーリーとその味を重ねつつ楽しむワイン。グラスの向こうには現代人の自然回帰へのあこがれも透ける。

 味の評価はどうかと聞かれそうだが、あえて触れずにおきたい。その方が先入観なく、自然に味わえるでしょう。

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 東京以外では京都市に次いで2カ所目となる福岡市での「フェスティバン」が18日正午~午後4時、博多区博多駅東の博多スターレーンで開かれる。九州各地の取り扱い飲食店も参加する。約300種類のワインが楽しめ、料金は7千円(食事は含まず、前売り6千円)。問い合わせは事務局=03(6804)9616。


=2016/09/07付 西日本新聞朝刊=

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