共に笑顔で 広がる高齢者ボランティア 拍手が生きがい 福岡の演芸一座 「ザ・としとら~ず」

西日本新聞

 元気なお年寄りが介護施設や病院などに赴き、ボランティア活動に取り組む事例が増えている。踊り、尺八、懐メロにマジック‐。達者な一芸を無料で披露する福岡市の「ザ・としとら~ず」もそうした高齢者のグループ。平均年齢は75歳に達するが年間120回の公演をこなし、敬老の日がある今月は全21公演と引っ張りだこ。代表の石橋稔さん(76)=福岡市城南区=は「涙を流しながら舞台を見てくれるお客さんがいる。私たちの方がパワーをもらっている」と語る。

 ▼若々しく芸達者

 今月3日、福岡市内のマンション集会場であった公演。着物姿でさっそうと現れたのはメンバー最高齢の塩田利夫さん(83)だった。得意の日本舞踊で観客の喝采を浴びる。アコーディオンを奏で「北国の春」を歌ったのは伴秀雄さん(75)。「伴奏の伴でございます」。お決まりの口上が今日も笑いを誘った。そしてマジック。石橋さんと新原典雄さん(73)、久禮(くれ)恵美子さん(76)がハンカチをステッキに変えたり、ちぎった新聞紙を元通りにしたり、見事な手さばきを見せると、会場は拍手に包まれた。「皆さん芸達者で、若々しい」。観客の女性(72)は感心しきりだった。

 ▼元職はさまざま

 グループは、石橋さんが長年経営した洋品店を畳んだ後、2009年に立ち上げた団体が前身。知人の紹介で仲間を増やし、11年から本格始動した。会員は現在20人。テレビのディレクター、警察署長、証券会社員、元職はさまざまだが、定年後に街の教室で習ったり、若いころから続けていたりした得意の芸に、日々磨きをかけている。

 公演依頼を受けると、車に分乗して会場に駆け付ける。交通費だけを頂き、車を出した仲間が、ガソリン代500円を受け取り、残金があれば会の運営費に充てる決まりだ。

 高齢だけに病気やけがを経験した人も少なくない。

 久禮さんは4年前、マジックの公演中に転倒して骨折、入院。今も体内に30センチの金具が残る。夫の一紀さん(75)は、舌がんの手術で舌の神経を半分失ったが「しゃべることがリハビリ」と、舞台の司会役を続けている。「これがなかったら、家に閉じこもっていたでしょうね」と一紀さん。

 代表の石橋さんも昨年末、肺炎で救急搬送され、5日間「危篤状態」に陥ったが、奇跡的に回復。周囲に励まされ、7月に復帰した。「外出もままならない施設のお年寄りが『博多座に来たようだ』と喜んでくれる。『長生きして良かった』と手を握ってくれる。だから、またがんばろう、と思うんです」

 ▼地域とつながり

 福岡市のボランティアセンターによると「ザ・としとら~ず」のような演芸グループは現在84団体が登録されている。うち6割超は50歳以上のシニア世代の団体。高齢者の団体登録は年々増えていて、背景には「介護支援ボランティア制度」の普及があるという。

 制度は65歳以上の高齢者が介護施設などでボランティア活動をすると、換金可能なポイントを受け取れる仕組み。演芸のほか、お茶くみや行事の手伝いといった活動も対象だ。

 同市の場合、ポイントは1時間の活動で200円相当に過ぎないが「励みになる」との声が多く、制度の登録者は3月末時点で1702人と、過去1年余りでも200人以上増加した。石橋さんたちも登録者だ。

 厚生労働省によると、昨年4月時点で制度は全国282市町村が導入済み。全国に先駆け07年に導入した東京都稲城市によると、習い事の発表会の延長で活動を始めた人でも「地域とのつながりを築き、自分が社会に必要とされている、という実感を得るきっかけになっている」という。

 「拍手を生きがいに、これからも支え合って活動を続けたい」と石橋さん。累計の公演回数は650回を超えた。次の繁忙期は、忘年会シーズン、12月だ。


=2016/09/17付 西日本新聞朝刊=

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