ペリネイタルロスのケアを考える<上>生後21日 子ども亡くした親 「大事にしてもらえず…」

西日本新聞

 ●病院対応 今も心に傷 
 先天性疾患などで死産や、生後1カ月以内に亡くなる赤ちゃんは年間約2万3千人に上り、流産も全妊娠の15%前後とされる。こうしたペリネイタルロス(周産期の子どもの死亡)を経験した親たちをケアするのも医療者の大切な役割であるとして、近年は看護学生の教科書に掲載されたり、医療者向け研修会が開かれたりしている。ただ病院によっては態勢が整っておらず、医療者の対応に傷つき、ショックから立ち直れない家族もいる。3回にわたり、ペリネイタルロスケアの在り方を考える。

 九州北部のマンション。リビングの一角には、大きめのベビー服に包まれた愛らしい赤ちゃんの写真が立てかけてあった。そばには仏具。室内は線香の香りに包まれていた。

 「杏梨(あんり)は結局どっち似だったのか、分からないままで…」。母親(39)は写真をなでながらつぶやいた。もう成長していく姿を見ることはかなわない。

 杏梨ちゃんは今年2月27日、妊娠37週目で生まれた。体重2168グラムと小さめだが、元気に泣いて、母乳もよく飲んだ。ところが、退院前の健診で心臓に雑音が見つかり、3月4日に大きな病院に転院。大動脈と肺動脈が1本になっている先天性心疾患「総動脈幹症」と診断された。幼少期に複数回の手術が必要で、杏梨ちゃんは9日に最初の手術を受け、主治医からは「手術は成功」と告げられた。小児集中治療室(PICU)では人工呼吸器が外れ、ミルクの量も増えるなど順調な回復を見せた。

    ◇   ◇

 PICUから一般病棟に移った18日、杏梨ちゃんの容体が急変した。

 母が哺乳瓶でミルクを飲ませ、看護師が便が出やすいようにおなかをマッサージした直後の午後9時半ごろ、唇が紫色に変わり始めた。呼吸や脈が確認できず、杏梨ちゃんは重症治療室(HCU)で心臓マッサージを受けたが翌19日午前1時すぎ、死亡が確認された。生後わずか21日だった。

 両親は病院側から死因を調べるための解剖をするかどうか尋ねられたが断った。3時間に及んだ心臓マッサージで胸の手術の傷口が裂けており「これ以上、小さな体を傷つけたくない」との思いが募った。

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 今も両親を苦しめるのは亡くなった後の病院の対応だ。HCU内の個室を「(家族)3人で過ごして」と案内されたが、10畳ほどの広さに長椅子とパイプ椅子しかなく「ぽつんと放置された気分だった」。

 さらに、抱きかかえていた杏梨ちゃんの顔が紫色になるなど傷みが気になったが、保冷剤は用意されなかった。赤ちゃんを受け入れる葬儀社に心当たりがなく、主治医に尋ねると「公立病院なので紹介できない」と、むげもなかった。急変の原因についても説明がないまま「死因 総動脈幹症」と書かれた死亡診断書を渡された。

 午前6時ごろ、杏梨ちゃんを抱いて車で帰宅した。杏梨ちゃんにとって初めての自宅…。父親(46)は失意の中、インターネットや電話で葬儀社を探した。親戚にも杏梨ちゃんが亡くなったことを伝え、その日のうちに通夜を営み、翌日に火葬した。

 「死んだことを受け入れられないのに、葬式の手配をしなければならないことが一番つらかった」。父親は言葉を絞り出した。

    ◇   ◇

 両親の求めで、病院で説明の場が設けられたのは3月31日。主治医は「解剖をしていないので確実な原因は分からないが、心臓の病気の重症度を考えると急変してもおかしくない状態だった」と説明。両親は「看護師の腹部マッサージが強すぎたのでは」と指摘したが、看護師は「他の患者さんと同じぐらいです」と否定した。

 「お医者さんも看護師さんも淡々としていて、杏梨が死んだのを誰も悲しんでくれていないようだった。杏梨はみんなに大事にされたんだ、と感じたかった」。やりきれなさだけが残ったという。

    ◇   ◇

 西日本新聞の取材に、主治医は「心臓の病気は容体が急変する可能性がある。杏梨ちゃんが元気になっていくものだから、両親も急変を受け入れることが難しかったのでは」と述べた。看護部長は「(杏梨ちゃんが亡くなり)ご両親が動転されていたため、3人で過ごしてもらおうと、看護師は個室を用意し気を遣ったつもりだったが、結果的に配慮が足りなかった」「遺体が冷えるのを嫌がる遺族もいるため、保冷剤の提供を控えた」とした上で「杏梨ちゃんが亡くなったことに心を痛めており、申し訳ない」と語った。

 病院によると、年間3~6人の新生児が亡くなり、死産も少なくないという。家族のケアについては院内研修のほか、臨床心理士が家族に寄り添って話を聞くなどしているが、看護部長は「杏梨ちゃんの場合は深夜だったため、できなかった」と釈明した。

 (次回24日はペリネイタルロスのケアに取り組む医療機関を紹介します)


=2016/09/17付 西日本新聞朝刊=

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