ペリネイタルロスのケアを考える<中>北九州市立医療センターの取り組み 「できる限りのお別れを」

西日本新聞

 ●手作り産着、院外研修も 
 〈赤ちゃんにたくさん話し掛けていただいて本当にうれしかったです。お骨は小さすぎて何も残りませんでしたが、作っていただいた手形足形のカードが私たちの宝物になりました〉

 北九州市小倉北区の市立医療センターに、ある母親から手紙が届いた。先天性異常でおなかの子どもは生きることが難しく、妊娠13週目で死産だった。助産師たちは、産声を上げなかった10センチに満たない赤ちゃんを沐浴(もくよく)させ、手製の産着と帽子を着せて母親に対面させた。母親と一緒に赤ちゃんの手足にインクを付け「ぺったんしようね」と語り掛けながらメモリアルカードに押した。父親も交えて個室で2日間を過ごしてもらった。

 ステンドグラスから光が差し込む最上階の霊安室で開いた「お別れの会」では、担当した医師や助産師が抱っこしたり、一言ずつ言葉を掛けたりした。そのまま駐車場まで見送り、家族は自家用車で火葬場に向かった。

    ◇   ◇

 同センターは福岡県内の7病院が指定を受ける総合周産期母子医療センターの一つで、北九州・京築地区の難しいお産が集まる。ただ、手を尽くしても年間40件前後の死産や流産があるという。

 市立医療センターがペリネイタルロス(周産期の子どもの死亡)のケアに本格的に取り組み始めたのは6年前。助産師の松本かおるさん(52)が、死産の赤ちゃん用の小さな産着や布団を手作りしたことがきっかけだった。

 赤ちゃんを母親の目に触れさせない、思い出は残さない-。こんな「死産をなかったことにする文化」は徐々に薄れてきた。亡くなった赤ちゃんに会いたがる母親も増えている。だが医療機関の対応はまちまちだ。「ちょうどいい大きさのひつぎがないから」と、生理食塩水が入っていた箱に赤ちゃんを入れて家族に渡す病院もある。

 同センターでも、6年前までは市販の産着が大きすぎて医療用ガーゼでくるむしかなく、見た途端に顔を背けてしまう母親もいたという。それが、手作りの産着と帽子を着せると違った。「悲しみの中であっても『わあ、かわいい』と少し顔がほころぶ。私たちも救われます」。松本さんは打ち明ける。

 センターでは、メモリアルカードや家族用冊子のほか、スタッフの対応マニュアルも作った。以前は、死産や流産の母親に対応するのは主にベテランの助産師長と決まっていた。だが助産師長が不在のときはどうするのか。誰もがケアできるようになろうと、助産師が毎年1、2人ずつ、院外の研修会に参加し、研さんを積んできた。マニュアルは産科での死産が中心だが、小児科と連携して新生児死亡も同様のケアを心掛ける。

 「元気に生まれた赤ちゃんと同じように、わが子が大切にされているのを見て、お母さんたちはいとおしさがこみ上げてくる。沐浴、抱っこ、親子で川の字になって寝る…。親としてできる限りのことをしてお別れをすることが、次に踏み出す力になる。そのお手伝いをしたい」

 マニュアル作成などに関わってきた助産師、山口美津枝さん(54)の思いだ。

    ◇   ◇

 こうした取り組みは近年、進みつつある一方、ケアが病院側の独り善がりになっては本末転倒のため、家族のニーズについて論理的に学ぶ場も増えている。

 福岡県看護協会は2014年から年1回、ペリネイタルロスを経験した母親への対応を学ぶ研修会を企画している。担当者は「産科や小児科では『死』は縁遠いものとされるが、実際には死産も新生児死亡も少なくない。不安を抱える看護師が学んでほしい」と狙いを語る。

 北九州市でも09年から毎年、研修会が開かれている。主催するのは、子どもを亡くした親と支援者らでつくる市民団体。家族に寄り添う医療者が増えてほしいとの思いからだ。3日間にわたって、研究者や実践者による講話だけでなく、子どもを亡くした親に語ってもらったり、実際に参加者が遭遇したケースについてグループで対応を検討したりする。

 代表を務める歯科医、武田康男さん(67)は「ペリネイタルロスに接すると、医療者側も『もっと何かできることがあったのでは』という意識にさいなまされる。家族をきちんとケアすることは、医療者のケアにもつながる」と期待する。

(最終回の10月1日はペリネイタルロスのケアの必要性について専門家に聞きます)


=2016/09/24付 西日本新聞朝刊=

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ