母乳とミルク<上>正しい情報伝える支援が必要 「おっぱい神話」が追い詰める

西日本新聞

 赤ちゃんを母乳のみで育てる母親が初めて5割を超えた-。そんな調査結果が8月、厚生労働省から発表された。1985年から10年ごとに実施されている「乳幼児栄養調査」。その2015年度版で明らかになった実態だ。授乳期の母親たちの間では、母乳育児への関心が高まる一方、悩みを持つ人も増えている。実情や支援の動きを2回に分けて紹介する。

 ●罪悪感に襲われて

 「母親失格なんじゃないか、そう自分を責めました」。福岡県大野城市の女性(32)は、6年前に男児を出産。赤ちゃんは生後すぐに感染症で治療が必要となり、幸い1週間後には母子そろって退院できたものの、病院では直接母乳を与える機会がほとんどなく、自宅に戻ってからも授乳はうまくいかなかった。

 病院は母乳育児を勧め、育児雑誌を見ても、母乳だけで育てる完全母乳が主流であるかのように扱われていた。だが、おっぱいは詰まり、出産以上の激痛。痛みに耐えて乳首を口に含ませても、息子は嫌がって大泣きする。「なんで飲んでくれないの」。思わず子どもを責め、罪悪感に襲われた。

 産後1カ月検診で、男児の体重はほとんど増えていなかった。粉ミルクを足すよう指導され、1カ月後には完全ミルクに。周囲の何げない「出なくてかわいそう」という言葉に深く傷つき、授乳する他の母親を見るのが嫌で、1年ほどは家に引きこもりがちだった。「『母乳神話』に振り回されていた。ミルクは夫もあげられるから育児に積極的になったし、母乳にこだわる必要は全くなかったのに」と今では思う。

 ●医学的な根拠なく

 日本では戦後、便利さと手軽さから粉ミルクが普及した。だが近年、母乳に含まれる免疫成分が赤ちゃんの感染症を防ぐ、といった母乳育児の利点が見直されるようになった。

 15年度の乳幼児栄養調査によると、生後3カ月で完全母乳の割合は54・7%。調査を開始した30年前の39・6%から大きく増え、粉ミルクと併用する人を加えると、およそ9割に上った。

 一方で、母乳が思うように出ない、うまく飲ませられないと悩む母親も多い。そんな現実に付け込むかのように、インターネット上には、管理状態が不明な「母乳」と称する商品の売買を呼び掛けるサイトが登場。昨年7月には、厚労省が感染症や衛生上のリスクがあるとして注意を呼び掛ける通知を出した。

 母乳育児支援の専門家、国際認定ラクテーション・コンサルタントの資格を持つ助産師、内田博子さん(34)=福岡市=は「周囲に相談できる相手もおらず、完璧にしなきゃと、悩みを抱え込んで追い詰められてしまうお母さんが多い」と指摘する。

 母乳は、赤ちゃんに乳首を吸われる刺激でホルモンが分泌され、出る仕組みになっている。だが、ネット上には医学的な根拠のないさまざまな情報が出回る。内田さんは「母親の気持ちに寄り添い、正しい情報を伝えるガイド役が必要」と語る。

 ●自分なりの方法で

 東京都江東区にある昭和大江東豊洲病院。ここには、善意で提供された母乳を保存し、必要とする赤ちゃんに提供する国内初の「母乳バンク」がある。

 2014年10月の設立から間もなく2年。延べ約30人の赤ちゃんが、母乳が出ない母親に代わり、バンクから母乳の提供を受けた。対象はこの病院にかかっている赤ちゃんだけだが、こうした仕組みは、早産児の深刻な病気のリスクを減らす効果があるとして、多くの国で普及が進んでいる。

 バンクを開設した小児内科の水野克己教授は昨年、NPO法人「江東豊洲子育て&母乳育児を支援する会」を立ち上げ、悩み相談の受け付けや、助産師向けの講習会を通して、母親たちを支える活動に取り組んでいる。今後は全国に窓口を広げていく考えだ。

 「一滴でも与えられたら、母乳育児。お母さんが自分なりの方法に納得し、育児を楽しめることが一番大切」。水野教授はそう話している。


=2016/09/30付 西日本新聞朝刊=

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