ペリネイタルロスのケアを考える<下>太田尚子・静岡県立大教授に聞く 適切な支援なくPTSDも

西日本新聞

 ●両親に寄り添って情報提供 
 ペリネイタルロス(周産期の子どもの死亡)のケアはなぜ必要で、どう在るべきなのか。子どもを亡くした親たちの自助グループに関わりながら研究を続ける太田尚子・静岡県立大教授(56)に聞いた。

 -おなかの中や生まれた直後に亡くなってしまう主な要因は。

 「心臓や脳、染色体などの先天性異常で生きられなかったり、胎盤の早期剥離(はくり)で子どもに酸素や栄養が行き渡らなくなった結果だったりと経緯はさまざまだ。原因が分からないケースもある。医療技術の発達や少子化で、こうした死産や新生児死亡は減少傾向にある一方、流産も全妊娠の12~20%とされている。子を失う体験をした人は決して少なくない」

 -ケアはいつから行われるようになったのか。

 「英国や米国では1980年代には普及していた。日本で契機になったのは、子どもを亡くした親たちが2002年に『誕生死』という本を出版したことだった。それによると、お母さんたちが本当に望んでいたのは、死産であっても子どもに会って一緒に過ごし、思い出を残すこと。死産がつらいばかりではなく、おなかの中にいた子に会えた喜びを感じた人もいた。医療者には衝撃的な内容だった」

 「当時は、お産の現場では死はタブーとされ、覆い隠されてきた。お母さんにとっても、亡くなった子に会わずに早く忘れるのが一番だ、と医療者も家族も思い込んできた。だが実際は違っていた。そうした親たちの体験談を頼りに研究も進んだ。09年からは助産師を目指す看護学生の教科書にもケアの在り方が掲載されており、私が執筆を担当している」

 -高齢者など大人が亡くなる場合と何が違うのか。

 「一般の死別の場合、それまでにたくさんの思い出があるし、亡くなるまでに何をしてあげようかと考える時間もある。出産前後の死別の場合は、誕生と同時か、時を置かずに死が訪れる。亡くなってから7日以内に死亡届を出し、火葬という運びになるので、短い時間で思い出をつくらなければならない」

 「家族はショックを受けている。医療者が家族から希望を聞き『お別れまでの限られた時間だけど、親として、してあげられることはありますよ』と情報提供する必要がある」

 -病院によってそうしたケアの質はまちまちだ。

 「態勢が整っている医療機関の多くは、現場の助産師や看護師の問題意識から始まっている。院外の研修会などに参加し、お母さんやお父さんの生の声に耳を傾けたことが、チームによる改革につながっている。そこに関心の高い看護師長や医師がいると、小児科や産婦人科など診療科をまたいで全体のケアレベルが向上していく」

 「一方で、充実していくと、チェックリストに従って機械的にケアを進めるといったマニュアル重視に陥る危険性もある。英国では、死産後に赤ちゃんに会ったことでお母さんが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した例も報告され、医療者が良かれと思った行動が裏目に出ることもある。赤ちゃんの状態や経緯、両親の精神状態、家庭環境はそれぞれ違う。あくまで両親を中心にして、複数の選択肢を用意してケアに当たるべきだ」

 -適切なケアが受けられなければ。

 「子どもとの対面や思い出づくりに加え、悲しみや怒り、不安など感情を表に出すことが全てグリーフ(悲嘆)ケアにつながる。これがうまくいかないと抑うつ状態になり、後にPTSDとなって日常生活に支障をきたす恐れがある。お母さんだけでなく、弱音を吐きにくいお父さんも発症することがある」

 「死産を経験した夫婦は、そうでない夫婦に比べ離婚率が40%以上高まるとの海外の研究もある。親戚付き合いや友人関係、職場などさまざまな方面に影響を及ぼすので、当事者たちだけの問題ではなくなる」

 -私たちが心掛けたいことは。

 「子どもを亡くした人がいたら寄り添って、話を聞いてあげてほしい。『早く忘れちゃいなさいよ』とか『次の子をつくれば』といったことは軽々しく言ってはいけない」

 「3年前に始まった新型出生前診断がきっかけで、染色体異常が分かって中絶する人も増えている。自らその道を選択したということもあって、誰にも喪失感を打ち明けられないことが多い。そうした人への気遣いも必要だ」

 ▼おおた・なおこ 専門は母性看護学・助産学。筑波大付属病院に助産師として8年間勤めた後、聖路加国際大大学院を修了。2004年に子どもを亡くした親や助産師らでつくる「天使の保護者ルカの会」を設立。13年から現職。ペリネイタルロスに関する看護者教育プログラムの開発に取り組む。


=2016/10/01付 西日本新聞朝刊=

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