母乳とミルク<下>液体ミルク、熊本地震で脚光 負担軽く、男性の参加も後押し

西日本新聞

フィンランドのメーカーが生産している液体ミルク 拡大

フィンランドのメーカーが生産している液体ミルク

日本フィンランド友好議員連盟から液体ミルクを贈られる阿蘇こうのとり保育園の園児たち=4月

 母乳と同じように、赤ちゃんの貴重な栄養源となる乳幼児用のミルク。世界では液体状のものが広く普及しているが、国内では製造、流通が認められていない。液体ミルクは粉ミルクと違ってお湯で溶かす必要がなく、封を切ればそのまま飲めるため、熊本地震をきっかけに注目が集まっている。育児の負担を減らす効果もあり、導入への期待が高まる。

 ●水を使わなくても

 「断水が長く続いたので、水を使わなくていい液体ミルクは本当に助かった」

 熊本県西原村の「阿蘇こうのとり保育園」の田中文典園長(65)はこう振り返る。4月16日の本震で、村は震度7の揺れに見舞われ、約3週間断水した。水道が復旧した後も、水の濁りが続き、村全域で飲用可能となったのは6月中旬だった。

 園には当時、ゼロ歳児クラスにミルクが必要な子が5人ほどおり、配給される水を沸かし、粉ミルクを溶かして飲ませていた。そんなとき、北欧フィンランドから支援物資として届いたのが液体ミルクだった。

 同国の乳製品メーカー「ヴァリオ」が、日本フィンランド友好議員連盟の呼び掛けに応じ、200ミリリットル入り紙パック約5千個を無償で提供。県を通じて、西原村や益城町、熊本市など被害の大きかった自治体の保育所に配られた。

 無菌状態で容器に密閉され、常温で半年から1年の保存が可能な液体ミルクは、衛生面の心配もなく、飲ませることができる。田中さんは「いざというときのために備蓄しておく必要性を痛感した」と言う。

 ●欧米では広く普及

 液体ミルクは、欧米では粉ミルクと同様に広く普及している。

 厚生労働省によると、日本では食品衛生法の規格基準が整備されていないため製造できず、輸入もされていないという。このため消費者の認知度が低く、国内メーカーも需要を見込んでこなかった。

 ところが今、風向きは変わりつつある。

 横浜市の主婦(37)が、国内製造を求めたインターネット署名には、熊本地震後、賛同する声が急増。2014年秋から今年4月までで約1万2500人分だった署名は、地震後わずか1カ月で4万に達した。

 「衛生環境が悪い中でミルクを与えるのは本当に大変だった。国も企業も、もっと子どもたちのことを考えてほしい」。生後3カ月の子を抱え熊本で被災したという女性は、署名に添えて、そうした声を寄せた。地震のストレスで母乳が出なくなり苦労したという母親や、医療や保育現場からも賛同の声が集まったという。

 熊本にミルクを届けた議員連盟の会長だった小池百合子東京都知事は、液体ミルクの普及を都として進める方針を示している。製品開発に向け、社内プロジェクトを立ち上げる国内大手飲料メーカーも出てきた。

 ●子育て社会に向け

 この主婦が署名を始めたのは、14年4月の長女誕生がきっかけだった。

 産後は授乳がうまくいかず、粉ミルクを使った。深夜、泣きやまない赤ちゃんをあやしながら、お湯を沸かし、哺乳瓶を消毒、ミルクを溶いて冷ます。体調が回復しない中、一連の作業はストレスや負担が大きかったという。外出時は、お湯と水を水筒に入れて常に持ち歩くため、荷物が重い。液体ミルクの存在を知り、「これだ」と思ったという。

 署名運動に協力する東京都の女性(33)は昨年、米国で男児を出産した。「昼間は粉、夜や外出時は液体と使い分け、すごく便利だった」と振り返る。共働き世帯が多い米国では、使い勝手の良さが人気だという。

 勉強会を企画し、企業訪問してメーカーへの働きかけを続けている主婦は「液体ミルクが普及すれば、男性の家事や育児への参加にも大きな弾みになるはず。子育てしやすい社会の実現に向けて、もっと多くの人に関心を持ってもらいたい」と話している。


=2016/10/01付 西日本新聞朝刊=

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