脊振の山里に歯医者さん 佐賀市の森永さん 診療所開設 集落唯一 「故郷に恩返し」

西日本新聞

 脊振山系の山里、佐賀市富士町中原に今年2月、小さな「北山歯科診療所」ができた。開設したのはこの地で生まれ、佐賀市中心部で歯科医院を営む森永太さん(69)。過疎と高齢化が進む一帯は歯科医院がなく、住民が困っていた。「故郷に恩返しをしよう」と旧農協支所を活用し、お年寄りと向き合っている。

 「元気やったね」。森永さんが70代の女性患者に話し掛けていると、入り口のアルミサッシがきしむ音とともに「こんにちはー」と、お年寄りが相次いで姿を見せた。

 治療台1台とエックス線室、待合場所だけの簡素な造り。2年前に統廃合で閉鎖されたJAさが富士町支所の一室を改装した。診療所の名前は、この地域が旧北山村の中心だったことに由来する。

 診療は週に1度、水曜日。患者の大半は70代以上で、近くに住む吉浦千鶴子さん(77)は「先生が来てくれて本当に助かる。早く治して、この辺で採れた高菜漬けの炒め物を食べるのが楽しみ」と笑った。

 森永さんの亡き父は元郵便局員で自治会長も務め、地域でよく知られた人だった。自身も高校進学で離れるまでここで暮らし、広島大を卒業後、久留米大医学部勤務を経て1980年、佐賀市に歯科クリニックを構えた。経営が軌道に乗るまで支えてくれたのは、故郷のおじちゃん、おばちゃんたち。「太ちゃんが立派になった」と車やバスで約1時間かけて通ってくれた。

 それから36年。中原地区を含む北山校区の高齢化率は39・8%となり、世話になった人たちも市街地に出るのが難しくなった。

 地域に1軒だけあった歯科医院は、6年ほど前に閉院。最寄りの歯科医院までは曲がりくねった山道を13キロほど下る必要があり、治療をためらうお年寄りが増えていた。

 「高齢者が健康に暮らすには口腔(こうくう)ケアが欠かせない。私も若くないが、体力が許す限り続けたい」。故郷のために一念発起した森永さん。「ここで父や昔の話を聞くたび、古里とのつながりを感じて心が休まる」と語る。


=2016/10/31付 西日本新聞朝刊=

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