民謡編<311>岳の新太郎さん(上)

西日本新聞

 佐賀県太良町の太良中学1年生、田嶋杏美(12)は今年の民謡民舞少年少女全国大会の中学生の部で4位に入賞した。九州大会では優勝した民謡少女である。両大会では「松浦潟」を歌った。太良町のこの秋の文化祭では「おてもやん」を披露するなど町では知られた存在だ。いたずらっぽく笑いながら言った。

 「学校の音楽の授業で合唱するときに民謡のこぶしがつい入ることがあります。学科では音楽よりも数学、理科が好きです」

 祖母の順子(76)が歌好きで、民謡を子守唄(うた)がわりに育った。民謡教室に通っていた順子から「杏美も習ったら」と勧められて、本格的に民謡の練習を始めたのは5歳ごろだ。教室への送り迎えの車の中で、順子の歌う民謡がBGMであり、ときには順子と合唱することもあった。民謡は身近な歌だった。

 「だから、民謡と特別に意識することはありませんでした」

 と言っても、民謡には独特な節回しがあり、学校で習う音楽とは違う。

 「民謡の節回しができるようになるまで4年ぐらいかかりました」

   ×    ×

 月に2回。現在も教室に通っている。自宅には防音装置の付いた祖母のカラオケ部屋があり、いつも練習ができる恵まれた環境にある。

 「全国大会で、もっと順位を上げるのが目標です」

 太良町には有名な郷土民謡「岳(たけ)の新太郎さん」がある。有明海沿いの道の駅の敷地内には2010年に町が建立した「岳の新太郎さん」の銅像があり、シンボルにもなっている。

 「この歌は簡単なようで難しい」

 杏美がこう言いながら歌い始めた。

 〈岳の新太郎さんの下らす道にゃ ざんざ ざんざ…〉

 九州の中学チャンピオンにふさわしい、堂々とした歌声だ。

 「歌謡曲の歌手では美空ひばりが好きですが、私のアイドルは嵐のマツジュン(松本潤)です」

 約200年前、マツジュンならぬ「新太郎さん」というアイドルがこの地にいた、という。銅像の台座には次のように刻まれている。

 「美男子の新太郎に想いを寄せる村娘たちの慕情を歌った」

 「岳」とは長崎県と佐賀県の県境にそびえる多良岳(996メートル)のことだ。民謡「岳の新太郎さん」は杏美の家からも仰ぎ見ることができる多良岳を舞台にして生まれた。

 =敬称略

 (田代俊一郎)


=2016/11/14付 西日本新聞夕刊=

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