進化する障害者アート

西日本新聞

 九州の障害がある人たちが生み出すアートが進化している。障害者アートの先駆け、NPO法人まる(福岡市)の代表理事で、障害者施設の商品を発掘し、市場に発信する株式会社ふくしごと(同)の副社長でもある樋口龍二さん(42)は、同社創設から2年ほどで九州各地の約70施設を回り、そう感じるという。中でも、樋口さんが「障害者を支援するだけでなく、一人の人間としての可能性を見いだし、地域につなげていく挑戦をしている」と注目する福岡県内の施設2カ所を訪ね、活動や作品を見せてもらった。

 ●糸島市の「MUKA(ムカ)」 地域への貢献と作品が生み出す好循環

 福岡県糸島市の「MUKA(ムカ)」は2006年、多機能型障害福祉サービス事業所としてスタート。現在、身体・知的・精神の障害がある19~80歳の90人が通い、依頼を受けて農作業、公園や海岸の清掃、伐採、高齢者宅の除草などを担う。理事長の岡崎義則さん(62)は「彼らが世に出て行けば、過疎や高齢化など地域の課題は8割方解決すると思う」と話す。

 活動の一つにアートがある。伐採した木材を芸術的なテーブルやかわいい動物の置物に生まれ変わらせる。端切れからカラフルな布製品や刺しゅうを生み出す。ほぼ全て利用者の発想やセンスで作られる。木工家具は予約待ちになるほどの人気だという。

 昨年、同市の海岸沿いにアトリエ「ムカアート」を設けた。海と木に囲まれた建物で約10人が制作に励む。山下浩太さん(21)は、優しい表情の地蔵や観音様の絵を黙々と描き続ける。書道家でもあるスタッフ上田千夏さん(43)は「何も指導はしていない。心から楽しんで描いているから、作品を見た人も楽しくなる」と語る。

 ムカでは、多くの他の施設のようにアート活動に専念する人はいない。清掃などで地域に貢献して認められると、アート活動に好影響が出る。その作品が見る人を癒やし、温かな反響がさらに制作者の自尊心を高め、地域で暮らす力になる。彼らと触れ合った人たちが障害への理解を深める-。

 アートを発信することで、そんな好循環が生まれつつある。そのこと自体がアートといえるのかもしれない。岡崎さんは「彼らの力を引き出すことができれば、社会は誰にとっても住みやすく優しくなる」と信じる。

 今月、山下さんの絵に言葉を添えた日めくりカレンダー(千円)が完成した。こんな言葉もある。「あなたはそのままで完全な存在です」。ムカの雰囲気をそのまま表している。ムカ=092(328)1923。

 ●久留米市の「ライクラボ」 明るく、おしゃれに 福祉のにおいさせぬ作品を

 「ライクラボ」は2013年12月、福岡県久留米市にできた株式会社。「切れ目のない支援」を掲げ、同市周辺に、障害児を預かる放課後等デイサービス、就労継続支援など計10施設と、障害がある人たちの作品を展示するギャラリー、障害者も働けるイタリアンレストランを展開する。

 社長の田中崇さん(37)が「福祉のにおいがしない、新しい福祉を創造したい」と始めた。常に「自分たちが使いたくなるサービス」を心掛ける。

 施設は明るく、きれいに、おしゃれに。例えば、放課後等デイサービスの部屋の壁は1面だけ色を変えている。おしゃれな雰囲気になり、発達障害の子どもたちには「青の部屋」「オレンジの部屋」などと分かりやすくなる。施設の面積は基準の約3倍を確保し、突起物をつかんで壁を登るボルダリングも備える。

 アーティストやデザイナーなど異業種の力も借り、ギャラリーやレストランは「福祉」を前面に押し出さない。アートに特化した就労支援施設「スタジオヌッカ」には洗練された作品が並ぶ。田中さんは「地域の福祉のベンチマーク(指標)になりたい。地域がぶるっとするような発信をしていきたい」。ライクラボ=0942(36)7070。


=2016/11/24付 西日本新聞朝刊=

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