離職防止に保育所や休暇 【第13部】老いの支え手 支えるには<2>

西日本新聞

 6年ほど前にヘルパー2級の資格を取得し、デイサービスに勤め始めた。介護業界は人材不足のため、「就職しやすい」という期待もあった。

 直美さん(51)=福岡市、仮名=はシングルマザー。15年前、配偶者の暴力が原因で、幼い子ども2人を連れて離婚した。当時は専業主婦。その後、歯科技工士として働いたが、残業続きで退職した。ひとり親の就職は厳しい。生計、子育て、家事を1人で担うため、一定の収入が必要な一方、長時間労働はしにくいからだ。

 介護の世界は、想像以上に楽しかった。「他人だけど他人じゃない。言葉にも重みがある。90歳から見たら私なんか“小娘”」。介護福祉士の資格も取得し、社会福祉法人の特別養護老人ホーム(特養)で正規職員となった。家庭の事情を職場が考慮し、子どもが小さいうちは夜勤を免除してもらえたことで、仕事が続けられた。同僚には同じシングルマザーも多い。

 現在は同法人内のグループホームで働く。あと2年で下の子も高校卒業だ。

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 介護職は女性が多い。施設で7割超、訪問介護は9割近い。一般的に女性は結婚や出産、家族の事情などライフステージの変化が仕事に影響しやすく、介護職対象の調査でも、賃金よりむしろ、「休みが取りにくい」など労働環境への不満の方が大きい傾向にある。

 特養やグループホームなどを運営する社会福祉法人南十字福祉会(福岡県福津市)は3年前、経営する特養内に認可保育所を開設した。

 子育て中の職員の支援を目的に始めたが、口コミで広がり、増員したかった看護師の応募も相次いだ。看護師の賃金は病院にはかなわず、採用に苦労していたのに…。原嘉伸理事長(78)は「今の職員のためにしたことが、結果的に採用のメリットになった」と言う。

 グループホームなどを運営するウェルフェアネット社(同県春日市)では、勤続1年以上の職員は年に1度、最大8日間の「リフレッシュ休暇」が取れる。2014年に導入した。年度初めに職員間で日程を調整し、その穴はパート勤務を増やすなど工夫している。

 「離職防止にはお金か休みか、とスタッフと話し、『やっぱり休みだよね』という結論になった」と総括執行役員の山城裕美さん(45)。リフレッシュ休暇の取得率は100%。新しく入った職員が「1年勤めたら私も取れるんですよね」と念を押してくる。そのいい表情に、山城さんは手応えを感じている。

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 ただ、離職が減り、比較的給与が高いベテランが増えると、人件費が経営を圧迫することにもなる。介護報酬はサービスへの対価であり、ベテランを増やしても、施設の「収入」は同じ。「5年くらいで辞めてもらったほうが経営は楽」(ある施設長)という本音も漏れるが、人材難が加速すれば事業自体が立ち行かなくなる。

 事業所に求められるのは、人件費増に耐える経営努力だ。南十字福祉会は、老朽化した施設の改築に合わせて増床し、増収を目指す。ウェルフェアネット社も、複数の事業所を経営することで人を柔軟に動かし、赤字を補うなどしている。

 介護現場には、新たな不安もある。公益財団法人介護労働安定センターの15年度調査では、過去3年間で、職員が介護を理由に退職した事業所が、約9千事業所のうち2割超あった。

 子育ての一段落が目前だった直美さんも最近、同居の母が入院し、要介護2となった。父は既に特養に入所。母の在宅介護が必要になれば、パートに切り替え、仕事を減らすことも考えているという。

 「介護職の介護離職」を防ぐ取り組みも、急務だ。


=2016/08/31付 西日本新聞朝刊=

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