職員の悩み 現場で解決を 【第13部】老いの支え手 支えるには<3>

西日本新聞

 希望を持って介護業界に飛び込んだら、そこはぎすぎすした、隔絶された世界だった。

 介護福祉士の春香さん(22)=福岡市、仮名=は、就職して1年にも満たない福岡県内の特別養護老人ホーム(特養)を、辞めようと考えている。

 職員の中に、「明らかに介護職に向かない人」が数人いる。「お年寄りが好き」とよく口にするが、態度を見る限りそうは思えない。常にいらいらし、何度も同じ話を繰り返す認知症の女性に「もう黙ってよ!」と怒鳴る。利用者は不安げで落ち着かなくなる。

 そんな職員も、多くは利用者の家族が面会に来ているときは優しげになる。だが、それすらできず、常に感情的な職員もいる。時折ニュースになる介護職員による高齢者虐待も、「まさかとは思うけど、ひょっとしたら…」と人ごとではない。

 責任者も気付いているが、人手不足で辞めてもらいたくないのか、見て見ぬふりだ。専門学校では、同級生と「こんなお年寄りには、どんなケアができるかな」と理想の介護を語り合った。現実とのギャップに、打ちのめされている。

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 「チームワークが築けていない」「主体性のない新人を、どう育成したらいいのか」

 NPO法人もんじゅ(東京)は、現場でのこうした悩みをテーマに、悩んでいる介護職と、同じ地域にいるベテラン介護職が対話する場を設けている。

 カウンセリングではない。ベテランは、質問しても助言はしない。「悩みを吐き出してすっきりするだけでは意味がない。悩んでいる本人に、問題を解決する能力が必要だ」と代表の飯塚裕久さん(41)は語る。

 飯塚さんは20代半ばから高齢者施設の現場で働いてきた。今は小規模多機能型居宅介護施設の施設長として、介護事業経営にも関わる。限られた時間で、その人にとって最良の介護をする難しさに悩んできたが、解決の糸口を求め、研修に参加しても、現場を知らない講師が「利用者を中心に考えましょう」と唱えるだけだった。

 「介護の質を上げるには、離職を減らせばよい」と飯塚さんは考えた。現場の職員たちは課題を論理的に説明し、解決する能力が不足しているように見えた。まずその能力を身に付ける。もともと介護職は利用者からの相談を受け、援助するのが得意。その能力を介護職に対しても生かす。そうすれば問題解決でき、離職を減らせるのではないか-。

 同法人のホームページでは、「スタッフ同士がぎくしゃくしている」という悩みを抱えたAさんの事例が報告されている。ベテランとの対話後、Aさんは課題を文書化し、職員たちに声掛けすることにした。実践した結果、職員たちがAさんに悩みを打ち明けるほど人間関係が改善し、上司からも評価された。

 この活動は全国10支部に広がり、九州では鹿児島、熊本両県で行われている。

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 飯塚さんは「介護職はもっと学ぶべきだ」と強調する。

 介護保険の仕組みや勤め先の経営状態が分からない人も多いと感じ、「知らないことで将来への不安が増し、離職につながっているのでは」と懸念する。

 ただ、現在の介護職の賃金では、教育を受けるため自己投資するのは難しい。

 そこで4月、都内で介護職対象の無料のビジネススクール「カイゴラボスクール」を開講した。飯塚さんが副学長を務める。本年度20回の講義がある予定で、15人が介護業界の構造や財務会計などを学んでいる。

 介護労働者が社会での役割を理解し、自分たちの労働の価値をどう高めていくか。そんな視点を持った人材が、超高齢社会の介護業界を支えると考えている。


=2016/09/01付 西日本新聞朝刊=

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