民謡編<316>民謡サークル(上)

西日本新聞

 福岡県糸島市の一貴山公民館の一室を三味線、尺八の伴奏に乗った北海道民謡の「ソーラン節」が支配していた。

 〈ニシン来たかと カモメに問えば 私しゃ立つ鳥 波に聞け…〉

 民謡サークル「深江民謡」の月2回の定例練習日だった。「ソーラン節」を歌っていたのはこの日、初めて顔を見せた岸美恵子だ。「ソーラン節を歌いたい」と入会したのだ。最初、この日集まった7人で「ソーラン節」をまず、合唱した。

 「では、岸さん歌ってみて」。こう言ったのは会の代表で2時間の練習時間の進行役を務める加茂真規子(72)だ。いきなりソロで歌うことになった岸は少し、恥ずかしげだった。安部ゆき子、新開清司がそれぞれ三味線と尺八で合わせる。加茂は「波を漕(こ)いでいくように体を動かしてみたら」などとアドバイスする。岸はどうにか歌い切った。

 次にバトンを受けた長崎紀子は「博多の子守唄(うた)」を歌った。

 〈うちの御寮(ごりょん)さんな がらがら柿よ 見かきゃよけれど 渋ござる…〉

 「博多の子守唄」は糸島方面の子守唄が元歌になっている、との指摘もあり、この地に縁のある民謡でもある。

 メンバーは女性が多いが、「黒田節」を歌ったのは阿志賀公一(35)である。阿志賀は「古いもの、伝統的なものが好きで、民謡を覚えたい」と昨年から加わった。

 参加者が全国の民謡を歌い継いでいく。民謡、という一点で集まったメンバーだが、練習は加茂の人柄もあって和気あいあいの楽しいムードに包まれていた。練習の成果を各自が披露する舞台は深江校区の文化祭だ。 

   ×    ×

 「深江民謡」というサークルが公民館を練習拠点にして発足したのは加茂が50歳になった、22年前のことだ。加茂はそれまで歌は好きだったが、民謡を歌ったことはなかった。「老化防止にいいのではないか」と知人に勧められたのがきっかけだった。以来、世話役として会の活動に力を注いできた。加茂が好きな民謡は宮崎の「日向木挽(こびき)唄」である。現地での全国大会には必ず参加している。

 〈大工さんより 木挽が憎い 仲の良い木を挽き分ける…〉

 全国には大小の民謡の会やサークルがある。「深江民謡」もその一つだ。このような集まりは民謡を伝承していく、地道であるが、確かな形でもある。加茂には「子どもたちにも民謡を伝えたい」との思いもある。

 加茂が「タッちゃん、歌って」と促した。横にいた孫、深江小学校6年の岩坪大晟(11)が立ち上がり、「日向木挽唄」を歌った。タッちゃんは地元で評判の民謡少年だった。 (この項続く)

 =敬称略

 (田代俊一郎)


=2016/12/19付 西日本新聞夕刊=

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