iPS細胞の未来信じ 「ヒト」で誕生10年 山中教授に聞く 拠点の熊大に期待 冷凍備蓄進めたい

西日本新聞

 今年、さまざまな臓器や細胞に変化できる人工多能性幹細胞(iPS細胞)がヒトで誕生し10年の節目を迎える。2014年には眼病患者のiPS細胞から作った網膜細胞を移植する世界初の臨床研究が実施され、今年は他人由来のiPS細胞での移植も予定される。ただ多くの患者が再生医療や創薬の恩恵を受けるには、技術面のほかコストや安全性などの課題も多い。iPS細胞の“生みの親”である山中伸弥京都大教授(54)は西日本新聞のインタビューに「これからが本番。iPS細胞が多くの患者を救う日が必ず来る」と自信を見せた。

 -10年を振り返って。

 「あっという間だった。臨床研究に進んだのは大きな一歩だが、新しい治療法として多くの患者さんを救うには20~40年はかかるだろう。趣味のマラソンに例えると半分も来ていない。前半飛ばしたら後半ばてる。焦らず着実に走りたい」

 -京大iPS細胞研究所長として、大学や製薬会社による研究の旗振り役も担う。期待している分野は。

 「最も先を走っているのが網膜。難病のパーキンソン病の治療研究も進んでいる。血小板の再生も期待できる。日本では近い将来、少子高齢化で輸血用血液が不足する。特に止血に必要な血小板は冷蔵保存ができず、確保が難しい。これをiPS細胞で大量に作って移植しようという試みだ」

 -がんにも応用できる。

 「がん治療は薬物、手術、放射線が三大療法だが近年は4番目として免疫療法が注目されている。免疫力を高めてがん細胞の増殖を抑える方法で、その免疫細胞をiPS細胞から作る研究が熊本大で進んでいる」

 -熊本大は熊本地震で高額機器が損壊し研究がストップ。山中教授は本震3日後に首相に支援要請した。

 「熊本大はiPS細胞研究の拠点。がんや腎不全の治療で世界的な研究者がいる。私も08~15年に客員教授を務めた。熊本大の教授から『研究者も被災し、マウスの状況も確認できない』とメールをいただいた。各方面からの支援で少しずつ立ち直っているようだ」

 -網膜移植では、iPS細胞から移植できる細胞まで分化させるのに11カ月、費用も約1億円かかったとされる。

 「患者からiPS細胞を作って移植するのが理想だが、オーダーメードの服が高いのと同じで、割高で時間もかかってしまう。その対策として、拒絶反応の少ない特別な免疫タイプを持つ日本人100人にボランティアで血液を提供してもらい、そのiPS細胞を冷凍保存して必要なときに分化させて使うストックプロジェクトを始めた。17年度中に日本人全体の50%に対応できるよう備蓄したい」

 -日本の基礎研究を巡る環境について、昨年ノーベル賞を受賞した大隅良典東京工業大栄誉教授は苦言を呈した。

 「確かに理解が進んでいない。毎月1週間、米国の研究所に滞在するが、日米の差を感じる。米国の研究者は地位が安定し、民間の寄付金も充実している。日本では1~5年の有期雇用も少なくない。若い研究者が結婚して子どもをつくって…という10年先の人生も見通せない現実がある」

 -iPS細胞研究はノーベル賞効果もあって国からの研究資金は潤沢だ。

 「そうしたお金は時代に左右される。10年後、20年後にはAI(人工知能)など新しい分野に持っていかれるかもしれない。でも私たちは研究をやめるわけにはいかない。研究者の安定雇用と、研究費が厳しくなったときのために寄付を受け付ける基金を創設した」

 「難病の子のお母さんが『うちの子は間に合わないのは分かっている。でも将来は同じ病気で苦しむ子が出ないようにして』と寄付してくださり、頑張らなければと背中を押された」

 -マラソンを走って寄付を呼び掛ける活動も。

 「趣味と実益を兼ねて続けている。夢は別大マラソン出場。母親の郷里が大分県別府市で、小中学生の頃は鉄輪温泉で土産物店を営んでいた祖父宅で遊んだ。応募資格は3時間30分を切っていることなので、ベストタイムを10分縮めなければ。こちらも頑張ります」

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 京大iPS細胞研究所は基金への寄付を募っている。事務局=075(366)7152。資料請求フリーダイヤル(0120)808748。

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 【ワードBOX】人工多能性幹細胞(iPS細胞)

 皮膚や血液などの特定の役割が決まった細胞に数種類の遺伝子を入れ、あらゆる種類の細胞に変化できる能力を持たせた細胞。山中教授が2006年にマウスで、07年にヒトで作製に成功した。従来の万能細胞の胚性幹細胞(ES細胞)は、子宮に戻すと人になる受精卵を壊して作るため倫理的な問題があったが、それを回避できる。病気やけがで失った組織や臓器を修復する再生医療や創薬への応用が期待される。


=2017/01/07付 西日本新聞朝刊=

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