男性介護者へ美容ケア指導 女性の癒やし 知らないこと多く 知ってほしい「介護マーク」

西日本新聞

 介助が必要な妻や母親を介護する男性が、女性ならではの身の回りの世話や外出したときに受ける誤解や偏見に困惑するケースは多いという。介護者の3人に1人は男性という現在、そんな介護男性の悩みを解消しようという取り組みも始まっている。

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 「全体によく広げてください。耳なども汚れているので丁寧に」

 昨年12月初旬、福岡市東区のイオンモール香椎浜の多目的広場。「男性介護者にも役立つスキンケア」と題した講演に買い物客が足を止めた。洗顔を指導するのは、医療現場の実態や看護師の成長を描いた漫画「おたんこナース」の原案・取材を担当した小林光恵さん(56)=茨城県つくば市。看護師として働いていた経験もあり、介護や看護に「美容ケア」の概念と実践を取り入れようと看護師向けの研修などを展開する。

 実演では、顔にクリームを広げて蒸しタオルで覆った後、きれいにふき上げた。モデルの男性が「想像以上に気持ち良かった。最近、子育てに忙しい妻にしてあげたい」と語ると会場からは拍手も起きた。

 こうした美容ケアは男性が手を出しづらい分野だが、小林さんは「クレンジングやマッサージをしてあげることで穏やかな時間が持てる。安らぎや癒やしがもたらす心理的な効果も大きく、話さずとも濃密なコミュニケーションになる」と説明する。爪切りやスキンケアなどの身だしなみも、される側だけでなく、してあげる方の気持ち良さにもつながるという。

 この日のイベントはイオン九州、福岡市、福岡大の産官学による共同主催。企画の中心となった同大医学部看護学科の助手、西尾美登里さん(43)は「子育てのイクメン同様、男性の介護者も求められている時代」と指摘、男性の「家庭進出」を促す。

 2月5日は「笑いと介護」をテーマに、午後1時から同会場でイベントを開く。本紙生活面に漫画「ペコロスの陽(ひ)だまりの時間」を連載中の岡野雄一さん(67)らが登壇する。

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 男性が女性を介助する際、手足などが不自由な人と異なり介助が必要と分かりにくい認知症の人は、トイレへの同伴や下着売り場での買い物など奇異に見られる恐れもあり、悩みの種になる。「介護中と分かれば見守ってもらえるはず」との声に応えて静岡県が考案し、2011年に導入したのが「介護マーク」だ。「介護中」の文字を両手で支える様子を図案化した。

 厚生労働省は同年12月、「高齢者を支える先進的な好事例」として周知を図るように都道府県に通知。静岡県によると、9県506市区町村(16年末現在)が導入。おおむね希望者の申請を受けて無償配布している。九州では佐賀県、福岡県の北九州、直方、筑紫野、大野城の4市、長崎県五島市、宮崎県の高鍋町、木城町が取り入れている。

 「マークを首から下げていれば『介護中ですから』との説明もスムーズに出た」と効果を語るのは福岡県宮若市の男性(77)。所属する「認知症の人と家族の会直方」(宗広寿美子代表)を通じてマークを知り、施設にいる妻(83)と外出したときに利用していたという。男性は公共施設などのトイレでは男性用を使用。トイレで他の利用者に驚かれたが、マークを下げていたことで落ち着いて対応できた経験を思い出す。

 行き交う人の視線も見守りや温かさを感じたという男性は「多くの人にマークを知ってもらい、介護する人への支援につながってほしい」と話している。

 ただ周知不足のためか、配布枚数はそれほど多くない。北九州市は16年までの5年間で99枚、同県大野城市は導入2年で2枚などにとどまる。14年度に導入した佐賀県は各市町の高齢者支援の担当課などで配布しており、県長寿社会課の窓口での配布は18枚となっている。

 ◇入手希望など問い合わせは静岡県長寿政策課=054(221)2442。


=2017/01/12付 西日本新聞朝刊=

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