【そもそも講座】もらい火で自宅焼失 賠償請求できる? 大半は「泣き寝入り」に

西日本新聞

 ●失火なら責任問えず 「保険で守る」大原則

 昨年12月に新潟県糸魚川(いといがわ)市で140棟以上が焼ける大規模火災が起こりました。糸魚川のように古い木造建築が密集する地域は各地にあります。火事の損害賠償にまつわる疑問点を、火災保険に詳しいファイナンシャルプランナーの野瀬ゆみこさん(43)=福岡市、「保険バスターズ」社長、顔写真=に聞きました。

  隣の家から火が出て自宅が燃えた「もらい火」(類焼)の場合、隣家に損害賠償を請求できますか?

  日本では失火責任法により、故意でなく失火で周囲が類焼した場合、火元は賠償責任は負わない決まりです。つまり失火なら賠償請求はできません。木造家屋が密集する日本では火事被害が大きくなりがちなので、責任を火元の個人に負わせるのは酷である、という考え方があります。

 ただし火元に「重大な過失」があった場合は例外的に賠償を請求できます。

  重大な過失とは。

  てんぷら油を入れた鍋をこんろにかけて長時間その場を離れたり、寝たばこで火事になったりと、誰が見ても危ないのに必要な注意を払わなかった場合です。ただこれは代表的な判例にすぎず、重過失とみなされるかは個別の事案により、一概に言えません。

  糸魚川のケースは?

  報道によると、火事は火元とされるラーメン店の鍋の空だきが原因だった可能性がありますが、重過失に当たるかは今後の捜査や司法判断次第です。また仮に重過失と認定されても、店側が巨額の賠償金を支払うのは難しいでしょう。

 つまり、もらい火で自宅が焼失しても、火元の責任は問えず、賠償金は受け取れない「泣き寝入り」がほとんど、というのが現実。自分の財産には自分で火災保険をかけて守るというのが大原則なのです。

  住宅ローンで家を買う時には火災保険に入るのが一般的ですね。

  はい。ですが「火事は起こさないから」と、もらい火の危険を考えず保険に入っていない方もおられます。住宅ローンの期間中は保険契約していても、支払い終わった後は無保険という方も古いマンションなどでは珍しくありません。

 各社の火災保険は2015年、36年まで可能だった長期契約が最長10年に短縮されました。近年の自然災害で保険会社の収支が悪化したことが背景です。今後は保険を更新しなかったため、比較的新しい家でも無保険、という事例が増えることが懸念されます。

  借家の場合は。

  もらい火に備える必要があるのは同じです。火元になった場合は、持ち家と同じく失火責任法により、類焼した相手には原則、賠償責任は生じません。ただし家主に対しては、借りた住宅を契約終了時に元の状態にして返す必要があるので、自分の落ち度で元通りに返せないと、民法415条(債務不履行責任)に基づき、家主に対する賠償責任が発生します。このため賃貸契約時には、借り主に保険(借家人賠償責任保険)の加入を義務づけるのが一般的です。

  火元に法的責任がなくても、ご近所の被災者に何もしないというわけにはいかないように思います。

  火災保険は、原則としてかけた本人のためのもの。しかし類焼損害特約を追加すれば、被害を受けたご近所の火災保険に不足があれば不足分を補償でき、保険に入っていない場合は損害を全額補償できます。特約の保険料は一般的マンションで年間千数百円程度なので、隣室に被害が及びやすい分譲マンションでは、必ず付けることをお勧めします。

 自宅の損害額の10~30%相当額が上乗せして支払われる臨時費用特約を付ければ、ご近所への見舞金に充てることもできます。

 火災保険に入っている方もあらためて保険証書を取り出し、わが家の備えを再確認するといいですね。


=2017/01/20付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ