民謡編<321>ゴッタンの世界(4)
宮崎県都城市の民俗芸能研究家の鳥集(とりだまり)忠男(故人)は1987年、ゴッタンの起源、名前の由来は中国南部の貴州省の少数民族、ミャオ族で使用されていた三弦琵琶であることを発表した。
鳥集は「照葉樹林文化を探る調査団」に参加し、現地で三弦の琵琶に出合った。胴の部分が板張りで「音色や感触もゴッタンそっくりだった」と語っている。特にその名前を「グータン(古弾)」と呼んでいることに注目した。このことからゴッタンの起源はグータンにある、との指摘だった。
照葉樹林文化論は1970年代に文化人類学者が提唱したもので、一時期、インパクトを持っていた文化論だった。照葉樹林帯は九州など西日本から台湾、中国南部、ブータン、ヒマラヤに広がる植生だ。そのエリアの生活文化の基盤には共通性があるとの説だ。
ゴッタンの名前は「グータン」とする鳥集説はこの照葉樹林文化論を下敷きにした仮説だ。こういった仮説が出てくるのも、それだけゴッタンがミステリアスな楽器ということをなによりも示している。
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ゴッタンの名前の由来はこのほかにも説がある。
鹿児島県姶良市の私設の「日本画美術記念館-草文」の館長である泊掬生(80)は方言説を支持する一人だ。泊の美術館にはゴッタン奏者の大家、荒武タミの資料も展示されている。
「ゴッタマシ(雑でごつい)のゴッとスカタン(不細工なもの)のタンが一緒になってゴッタンになった」
胴が板張りで、杉材による雑で無骨な楽器ということだ。この説のバリエーションとして、音そのものから推論する人もいる。鹿児島市の元鹿児島大学教授(比較民俗学)の下野敏見(87)である。
「ゴッは三味線と違ってゴツンゴツンとした音を表しているのではないでしょうか」
名前の由来について諸説あるが、起源と同じく定説はない。ただ、どの説も中国から伝来し、薩摩で改良され、素朴な作りと音で庶民に浸透した楽器であるという点では通い合っている。三弦、三線(さんしん)、三味線といった「三」の字は入っていない。土着的な響きのゴッタンという名前が普及、定着したことに、庶民のオリジナリティーと誇り、そして、生活と共にあった楽器への強い愛着を感じる。
ゴッタンの履歴や名前が一躍、注目されるようになったのは荒武タミという盲目の芸能者の登場だった。
=敬称略
(田代俊一郎)
=2017/02/06付 西日本新聞夕刊=