特養で要介護度を改善 熊本「みかんの丘」 自立支援の試み 歩行訓練や水分摂取… 介護報酬減るジレンマ

西日本新聞

 介護施設で暮らす高齢者の要介護状態改善を目指す「自立支援介護」が注目されている。十分な水分摂取や運動などで、入所者の自立度向上に取り組む熊本市の特別養護老人ホーム(特養)を取材した。

 「なるべくお茶を飲んでくださいね」。テレビを見たり、おやつを食べたりしてくつろぐ入所者に職員が声を掛ける。起床時や就寝前、入浴後もそれぞれの好みの飲み物を勧める。廊下では、歩行器などで歩く練習をする人が目立つ。

 熊本市西区河内町の特養「みかんの丘」(定員50人)は2012年、自立支援介護に取り組み始めた。「ベッドの上で過ごし、日々弱っていくだけでいいのか」という職員の疑問がきっかけだったという。

 竹内孝仁国際医療福祉大大学院教授が提唱する方法に基づき、入所者の状態に合わせて1日約1・5リットルを目安に水分を摂取し、介護食ではなく普通の食事を食べる。下剤やおむつに頼らず、トイレでの自然排便を促し、つかまり立ちや歩行訓練といった運動も取り入れる。

 こうした取り組みで、寝たきり状態から立ったり、歩いたりできるようになる人が増加。多くの入所者の生活リズムが整い、日中の睡眠やぼうっとする時間が減り、夜に熟睡できるようになった。

 要介護度の平均は4年間で3・93から3・39(15年度)に改善した。80代女性は要介護4から2になって有料老人ホームに移り、夫婦で生活を始めた。90代男性は家族の介護負担が減り、頻繁に一時帰宅できるようになった。認知症で分からなくなっていた娘の顔を認識できた人もいた。

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 導入当初は、食事や排せつなどの介助に人手が要り、事務職員まで動員した時期もあった。「トイレに移動させたり、歩かせたりするのはかわいそう」などと反発してやめる職員もいた。

 ところが、入所者の状態が改善してくると、介助は楽になり、夜間に熟睡する入所者が増えて夜勤職員の負担も減った。成果とともに職員のやる気も上がり、17%だった離職率は6%まで下がった。

 施設長の池尻久美子さん(44)は「入所者の状態や体力をもう一度上向かせ、生活を豊かにしたい。それが介護職の専門性につながるはず」と強調する。

 課題もある。介護保険制度では、入所者の要介護度が重くなるほど介護報酬が増えるため、要介護度が改善すると施設の収入は減る。みかんの丘では介護報酬改定の影響もあって、15年度の収入は12年度の約1割減。重度者の優先受け入れなどで加算を積み重ねて補っている。

 池尻さんは「現状では、入所者の要介護状態を改善したいという意識が職員に芽生えにくい。成果を適切に評価し、それに見合った報酬が得られる制度を検討してほしい」と訴える。

 ●「改善したら報酬」 自治体に広がり 重度者受け入れ敬遠される懸念

 高齢者の要介護状態を改善した介護施設に、自治体が成功報酬を出したり、表彰したりする試みは、各地に広がりつつある。

 福井県は2015年、介護費抑制などを狙い、要介護度改善促進事業を開始。成果を上げた事業所に交付金を出し、先駆的に取り組んだ職員を表彰している。15年度は145事業所が参加し、対象となった高齢者1548人のうち、12・4%(192人)の要介護度が改善した。15、16年度予算はいずれも約1500万円。同県の担当者は「介護職の意識が変わってきた」と話す。

 滋賀県や東京都品川区などでも同様の試みを実施。また、政府の成長戦略を策定する官民会議では昨年11月、自立支援介護の普及と要介護度改善を反映させる介護報酬の見直しなどが、有識者から提案された。

 これに対し、全国老人福祉施設協議会(東京)は1月、要介護度のみを評価尺度として介護報酬を増減させることは「改善の見込みが厳しい高齢者の受け入れを阻害する」「高齢者が望まないリハビリなどを課すことになる」などと反対を表明している。


=2017/02/16付 西日本新聞朝刊=

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