【提言委員座談会】激動の時代 共生に価値

西日本新聞

 米国のトランプ大統領誕生、英国の欧州連合(EU)離脱選択、韓国大統領辞任表明など、「まさか」と思われた事態が続いた2016年の流れを受け、世界的な激動が継続、現実化している。反グローバル、分断、不安定といったキーワードで語られる国際社会は連帯、共生のベクトルを弱めていくのか。安倍首相の一強政治は、改憲、アベノミクス失速、解散総選挙などを見据えながらどういった展望を描いていくのか。1億総活躍社会、地方創生などの取り組みはどんな成果を上げるのか。こうした時代状況の中で、私たちは日本や地域社会の針路をどうとらえればよいのか、そして創立140周年を迎える本紙の役割として何が期待されているのか。本紙の大型コラム「提論 明日へ」を執筆する提言委員の座談会を開き、「2017年の展望と視座」を語り合ってもらった。

 (敬称略、司会は西日本新聞社編集局長・遠矢浩司。座談会は日米首脳会談開催前の10日に実施)

【国際社会への視座】「内戦」極論生む 格差つくらぬよう 民主主義壊れぬ アジア導く人材を

 -英国のEU脱退選択や米国の大統領選など、国際社会で「まさか」と思うことが相次いでいる。

  トランプ現象は突然変異で起きたのではなく、欧州で起きている現象の米国版。グローバル化の中、キーワードは「内戦」だ。シリアのように武器は使わなくても国の中で内戦的な状況が広がり、非常にエクストリーム(極端)な考え方が出ている。

 徳増 「まさかの時代」は、時代の閉塞(へいそく)感が生んだ一時的な逆行現象であってほしい。トランプ大統領が選ばれたことによる混乱、疲弊、マイナス面が出てくるだろうが、そこでとどまっていたら人類の未来はない。

 平野 単純な説明やキャッチフレーズに多くの人が自分の漠然とした不安の根拠を求めようとしているのではないか。実際に国益が深刻に対立するような問題が出てきたとき、ナショナリズムをあおったトランプ大統領やロシアのプーチン大統領、欧州の極右政治家は、どう落としどころを見つけるのか非常に懸念を感じる。

 松田 国内があまりにも分断され、格差があると、外から分断を作ってコントロールする人が出てくる。格差をつくらない、置いてきぼりの人を増やさないことが本当に大切だと今回感じた。

 関根 私たちは米国のリベラリズム、多様性を認める文化をお手本にしてきた。多様性を重視し、さまざまな人が流れ込むことによって新たな産業を育成してきたのが米国。その多様性を捨てるのは、米国の死を意味すると思う。

 丸山 国際情勢は修正局面と考え、それほど心配していない。そもそもの問題は富の再配分。米国は閾値(いきち)を超えた。食べられない、教育を受けられない、医療を受けられないという問題が重要で、米国は国家として弱体化していたのではないか。

 -トランプ現象に見られる自国第1主義や内向き志向などの国際状況をどう見るか。

 宮本 英国にしろ米国にしろ、私たちよりはるかに民主主義先進国。この1回でつまずくとは思えない。メイ英首相もトランプ大統領も民主主義の結果だ。民主主義を信奉する以上、否定できない。否定したら民主主義でなくなる。だから米国は、その結果を受け入れている。受け入れて、そこに反省が生まれてくる。両国の民主主義が簡単に壊れるかは疑問だ。

 関根 ヒトラーも民主的な手法で国家元首になった。日本が戦争に突き進んだ時の内閣も、一応民主的な方法で選ばれた。トランプ氏だってそうだ。そうして実権を握った人がさまざまなことを変えていくと、こんなはずじゃなかったとなってしまう。それが私たちの戦争を起こしたときの反省だったが、同じ事が進む懸念がある。

 平野 ヒトラーを持ち出してトランプ氏を論じるのは間違いだという話がある。プーチン氏や安倍政権もそうだが、政治家、一国の首相や大統領が体現する倫理性は国民に対し強い影響力を持っており、一つの雰囲気をつくっていく側面がある。

 丸山 政権と国全体は決して一枚岩ではないということが、今回露呈された。米国の政権とはこの程度のものだということ。政権の力というものは、人によって変わっていく可能性がある。ああいう言動で政治をつかさどっていく人がいる半面、それに反発する人があれだけいることを間近に見ることができた。

 徳増 日本がアジアのリーダーになって近くを固めないと、日本の存在感は高まらない。国際的、特にアジアで受け入れられる人材の育成に取り掛からないと、日本が世界の中で孤立してしまう。

 宮本 戦後の国際秩序は、人類が第1次、第2次大戦の悲惨な結果と反省を踏まえて作り出してきた。経済は自由貿易、政治は自由民主主義。それを日本国憲法も反映している。トランプ氏が出てきたから、英国がEU離脱をしたから、何かおかしくなったというだけで、これを捨てるべきだという気にはならない。日本国憲法を守るのは理念。今こそ、米国に対して理念をぶつけるべきだ。

  トランプ大統領の米国が最大のリスクになっていくと考える。世界経済、国際秩序、安全保障において、米国が危険因子の一つに大きく浮上した。大切なことはリスクの分散。日本がリスクの中に飛び込んでいくという選択をすると、そこから生まれるリスクは計り知れない。今回の日米首脳会談が成功したという報道があったとしてもリスク分散を探るべきだ。

■九州に根ざし 世界見よ

【日本の針路と九州の未来】移民問題に多様性を 依存型脱せよ

 -このような世界情勢の中で、日本の針路について聞かせてほしい。

 宮本 まずは、平和をどうやってつくりあげていくか、そういうものが日本国民の中になければいけない。決して忘れてはいけないのが歴史の問題。もういいじゃないか、という声は多いが、近隣諸国と付き合っていく上では絶対に避けて通れない。反省するところは反省するという姿勢をもたないと、関係の基礎が揺らいでしまう。

 また、日本の再活性化も非常に大きな課題だ。日本の社会、経済が停滞したり後退したりしていれば、外に対しての影響力を持てない。

 徳増 外国人労働者が100万人を超えた今、日本は新時代の“和”を求めるべきだ。西日本新聞はキャンペーン報道「新移民時代」で積極的にこのテーマを扱っているが、外国人への日本語教育などを進めて海外の人たちをどんどん取り込んでいき、今までの“国内向けの和”を変えていくべきだ。

 松田 移民問題や女性への侮蔑(ぶべつ)的な発言について、国内でもトランプ大統領を批判する声があるが、日本にも女性差別や人種的な差別はたくさん残っている。今こそ他山の石として、本当の意味で人権を守り、平和分野で貢献できる国になっていく好機と思う。

 平野 日本では、外国人労働者や留学生たちが、コンビニの店員や3Kと言われる仕事を担っており、そういうことをやってもらうために途上国の移民に来てもらうという、どこか差別的な発想があるのではないか。今後、テクノロジーが進歩して、そうした仕事が機械に置き換わっていけば、受け入れる必要がないという理屈になる可能性がある。

 日本はあまりにも難民を引き受けておらず、鎖国的な政策を取ってきた。人類という普遍的な視点から考えるべきときで、経済的な利益とか、人口減少ということとは違う形で日本の多様性を考え、移民や難民は受け入れた方がいいと思う。

  なぜナショナリズムが出てくるのかというと、満足な生活ができず、自分のことを中流と思える人たちがどんどん減っているのが原因だ。日本人であることが特権で、そこにしか自分のリスペクトがないと思う人たちが、どうしても極端なところに向かってしまう。

 地方に行くと、空洞化している所がたくさんある。地域間の格差は深刻になっている。最後は日本人であることしか誇りが持てない人が増えている。国が重要な機能である所得再配分によって是正しないといけない。現状を食い止めない限り、トランプ的な現象が日本でも起きると思う。

 丸山 今、政権に一番お願いしたいのは、相当現場は大変な状況に陥っているということ。早く手当する何らかの仕組みを作らないと、とんでもないことになるだろう。日本では民主主義が脆弱(ぜいじゃく)と考えているが、かすみを食べて民主主義は達成できない。満足な生活をしてこそ、ものを考える力も養えるわけだから、日本は危ういところを過ぎていると思うし、政権は実感として気付いていないのではないか。医療現場を見ていてそう思う。

 -地方を豊かにするためにはどうすれば良いか。

 宮本 地方がしっかりしないと日本全体は底上げしない。国に責任転嫁するのはやめて、自分で考えることだ。たとえば外国人の投資を呼び込むことも含めて自ら考え、外の人を使う地域の発展をぜひ考えてほしい。

  災害への備えに関して言えば、熊本地震では初動態勢がふらつき混乱した。これを契機に、九州の中に災害拠点をつくり自治体間の協力を深めないといけない。例えば各県がファンドをつくり、九州で災害が起きた場合に融通し合うこともできるはずだ。国がやってくれないから、という依存型になっている。

 丸山 豊かな自治体とそうでない自治体を有機的につなぎ、医療、介護問題の解決を図る仕掛けも考えられる。

 関根 関東では、東京のある区と群馬のある村が、地震発生時に人々を長期避難させる協定を結んでいるケースがある。普段から東京の子どもたちがその村に行き、ひと夏を過ごすといったことを続けている。九州でも、そんなことがもっとあって良いと思う。

【新聞の役割】事件背景より深く ネットと連動を

 -多メディア、会員制交流サイト(SNS)の時代。フェイクニュースなど、さまざまな言葉が出てきた。そうした状況の中での新聞の役割をどう考えるか。

 平野 SNSをやっている。新聞が厳しくなっているのは分かるが、一方でフェイクニュースなどたくさんある。だから最終的な議論は、新聞の一次情報をベースにやることが多い。新聞がだめになるとフェイクニュースだらけになる。新聞がしっかり取材するということが、社会の安定にとってはすごく大事なことだ。

  間違いなくファクトチェックができるのは新聞しかない。新聞の出番だ。記者が足で稼いで取材をしている。新聞社が大学などと提携して、ある情報を検索した時に、うそは赤、要注意は黄色、事実なら緑といったような格付けシステムを開発できないだろうか。「わが社としてはこれは要注意だ。そう見なしています」などという、あくまでも参考資料としてだ。熊本地震で、動物園からライオンが逃げ出したという情報がネットに流れた。これはフェイクだから赤だ。そこに新聞社の大きな存在意義があるのではないか。

 宮本 うそを書かない、ちゃんと調べています、ジャーナリズムはそれで発展してきたんじゃないか。どうしても守らないといけないルールを作りあげてきたわけだ。でもその基になったものが多くの人には知られていない。やっぱりいいものを買いたいというニーズがあるのと同じように、新聞というものは厳選して、きちんと取り組んで報道している。そうしたことを打ちだしてほしい。

 丸山 事実を書き続けても、それが読者に分からない。事実を書くという宣言が大事。それをどう体現し、読者に気付かせるか。西日本新聞は事実しか書かないし、間違ったら謝るという姿勢が必要。事件報道はテレビが早く、新聞に速報性は期待しない。事件の背景が知りたい、なぜそれが起きたかという掘り下げを加えていくことだ。

 平野 ただ、事実と言われていることはそんなに安定的ではない。科学的事実は常に更新されるし、歴史的な事実も後の研究で明らかになっていく。

 松田 この視点が足りなかったとか、このコメントを加えればよかったとか、社内で振り返ったことを紙面に出せば、信ぴょう性が高まるのでは。

 関根 投稿が載ると私が作っているという感覚になる。「マイニュースペーパー」という感覚は大事にしてほしい。ネットを敵にするのでなく、コミュニティーを作っていくなど、使ってもらえるツールとして新聞がネットと連動してほしい。

 -九州と生きる西日本新聞への注文と期待は。

 徳増 ネットは流れていく情報。新聞はストックしていく情報。書き手がいて、その掘り下げ方で新聞が特色を出す。「新移民時代」のように九州はアジアに近い。九州に根ざしながら、世界を見ていける視野を持った筆力、取材力、分析力でオリジナリティーを出してほしい。

 丸山 例えば福岡の市と宮崎の村を組み合わせて、お互いの問題を語り合わせる。書いたり、言ったりにとどまらず、何かやるところに落とし込んでいけばどうか。

 平野 ウェブを通じて全国で読まれる可能性は広がっている。「西日本新聞と言えば何か」ということを、「九州の新聞」ということ以外にも加えてほしい。例えば調査報道。最近、在京の報道関係者と話していて、政治家などへの「忖度(そんたく)」を実際に感じることが多々ある。東京から物理的に離れているのは良いことで、距離感を生かした政治スタンスに可能性があるのではないか。

 宮本 世の中の主流、つまり東京とは違う視点を売りにすべきだ。いろいろなところで私は「中国はこう考えている」と話しているが、新鮮だと驚かれる。世の中で普通思われていることと違うことを意識的に発信してもらいたい。

 中国もある時点でがらりと変わる可能性がある。中国の友人は、Wechat(交流アプリ)が中国を変えていると言う。国民と当局の力関係が国民に移ってきている。普通の中国人の対日意識も(いい方向に)変わっている。

 松田 アジア都市ジャーナリスト会議などの蓄積を生かすのも大事。人の交流があって検証もできる。

 ▼「提論 明日へ」 混迷の時代に私たちが抱える問題を読み解き、今後の展望について九州ゆかりの著名人・有識者に執筆してもらう大型コラム。日曜日朝刊に掲載。提言委員は10人。座談会に出席した7人のほか、日本総合研究所調査部主席研究員の藻谷浩介さん、本多機工社長の龍造寺健介さん(2月で退任)、自治大学校客員教授の武居丈二さん(同)。


=2017/02/23付 西日本新聞朝刊=

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