「患者の声に学んで」 活動終えるオンブズマン 相談受け付け6000件

西日本新聞

 医療機関に対する苦情や治療への不安などの相談に応じる福岡市のNPO法人「患者の権利オンブズマン」(久保井摂理事長)が3月末で活動を終え、5月の臨時総会で解散を決める。日本初の医療専門の民間相談機関として1999年に設立。訴訟ではなく対話による解決を目指し、カルテの開示方法をアドバイスしたり、医療機関との面談に同席したり…。受け付けた相談は約6千件(電話相談を含む)に上る。患者や遺族の訴えからは、医師や看護師の都合が優先され、患者に十分寄り添えていない側面も浮かび上がる。「苦情に学んでほしい」とオンブズマンが公表した二つの事例から、在るべき医療の姿を考えたい。

 ●肺がん末期に行動抑制 ケア計画策定を勧告

 肺がん末期の福岡県の女性(69)は、病院の緩和ケア病棟に入院。骨転移による腰椎の圧迫骨折が見つかったため、主治医は入院と同時に「硬性コルセット常時装着、ベッドの背は30度以下」を指示した。女性は座ることやトイレでの排せつができなくなった。

 開示されたカルテや遺族によると、女性は「体がきつい。コルセットを少し外して」「これなら死んだ方がまし」と毎日訴えたものの病院は取り合わなかった。余命1~2カ月の診断だったが、看護師は女性に「余命は3~6カ月。この間腰痛で苦しみ続けるのですか」と説得。精神的に不安定になった女性に抗精神病薬や睡眠導入剤を投与した。

 意識が低下した女性を見た娘が「薬でこんなに抑制して。母の意を汲むのが緩和ケアではないのか」と抗議すると、看護師は「この対応で不足なら退院や転院を」と突き放した。女性は入院から20日後、別の病院に転院し、5日後に死亡した。

 遺族はその後、オンブズマンの助言を得て病院側と面談をしたが納得できる説明は得られなかった。オンブズマンは双方から話を聞いた上で、憲法や世界保健機関(WHO)の指針などを基に「患者の自己決定権や尊厳が尊重されていない」として、患者や家族の意向を生かしたケア計画を策定し、人員態勢を確立するよう病院側に勧告した。

 ●分娩待機中に胎児死亡 監視体制の不備指摘

 順調に妊娠40週を迎えた福岡県内の女性(28)が破水し、入院して子宮口が開くまで分娩(ぶんべん)待機。病院が胎児心拍などを監視するモニターを外した2時間後、胎児がおなかの中で死亡しているのが診察で判明した。女性はその後、自然分娩。胎児は貧血状態で、胎内で急に失血して亡くなったとみられたが、解剖せず原因は判明しなかった。

 女性によると2時間の間に「胎動がない」と訴えたが、助産師は胎児の無事を確認しなかった。死亡が分かった後、女性への精神的ケアはなく、死産直後に胎児を見せられ解剖するか尋ねられた際は、冷静に判断できず断ったという。

 これに対し病院側は、入院時診察で正常に経過しており、常時モニター監視する必要はないと判断したと説明。女性が「胎動がない」と訴えた覚えはなく、胎児の死亡は「ごくまれな偶発症」とした。

 分娩待機時のモニター監視について国際基準や日本産科婦人科学会基準は「15~60分に1回」と定めているが、この病院は定期的に実施していなかった。オンブズマンは「定期的に行っていれば失血前の心拍異常に気付き、不幸な事態を回避できた可能性はあった」として、分娩待機中の対応を見直すよう勧告。家族のケアの在り方と、原因究明に向けて家族と話し合う態勢を整えることを求めた。

 ●患者を守る新たな芽に 波平恵美子・お茶の水女子大名誉教授

 患者の権利オンブズマンが果たした役割は何か、私たちはそれをどう生かすべきか。文化人類学者で医療倫理に詳しい波平(なみひら)恵美子・お茶の水女子大名誉教授(74)=福岡県新宮町=に聞いた。

 最も大きな功績は「患者の権利」という概念を浸透させ、「医療の主役は患者」と認識させたことだ。

 1990年代の日本の医療は、患者に十分な情報も決定権も与えず「患者は医師に従うべきだ」というパターナリズム(父権主義)の塊だった。オンブズマンは、世界保健機関(WHO)が94年に提唱した「患者の権利促進宣言」の理念を基に、権利擁護体制の確立に貢献した。

 今では各地の保健所などに相談窓口が設けられ、2015年から医療事故調査制度も始まった。各病院にも患者権利憲章が掲げられている。これらは関東や関西に活動の裾野を広げた福岡発の成果と言っていい。

 ただ、保険内と保険外診療の併用を認める「混合診療」の解禁が取りざたされるなど医療はますます複雑化・高度化しており、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)の形骸化なども散見される。患者側にも「難しいことは分からないから先生に全てお任せします」といった“お任せ医療”がいまだ見られる。新たな窓口や制度を大いに活用して実りあるものにしていく知識と自覚が患者にも必要だ。

 誰もがあすは患者に、医療事故の当事者になる恐れがある。解散で無に帰すのではなく、市民講座などでまいた種が患者の権利を守る新たな芽になることを期待したい。


=2017/03/04付 西日本新聞朝刊=

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