渚にときめく(2) 世界を旅した2人の母港

西日本新聞

 姪浜漁港(福岡市西区)は「世界一の港」-。オランダ人のヤップ・モルダーさん(61)とマライカ・ヤンセンさん(63)の夫妻はそう言い切る。“自宅”は同漁港に停泊する中古のヨット。博多湾の名産にあやかり「ノリ」と名付けた15歳のオス猫と暮らす。

 ここに初めていかりを下ろしてから28年が過ぎた。“自宅”にはベッドと発電機しかないが、暮らしに不自由はしない。「今日は寒かろ。風呂に入りに来んね」「洗濯機は自由に使ってよかとよ」「魚はいらんか」…。今もこんなふうに地域住民が電話で気遣ってくれる。かつて英語を教えていた子供たちが成人し、結婚式にも招かれた。その子供たちが今は孫のように「じいちゃん」「ばあちゃん」と懐いてくれる。

 「博多湾で働く漁師が好きなんだ」。モルダーさんは長年、地元の西嶋久仁利さん(72)、英二さん(69)兄弟が操業する漁船に乗り込み、漁を手伝う。「魚を取って、売る。海で生きる男たちの知恵やシンプルな暮らしが格好いい」。口数が少ない兄弟との「あうんの呼吸」も板についてきた。

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 世界の海を旅してきた。

 2人が中古ヨットで母国を出港したのは1984年。ドーバー海峡を抜け、大西洋を渡り、ポリネシアの島々を巡った。船上で魚を釣り、嵐に耐え、満天の星空を浴びた。

 一時はニュージーランドで仕事を得たが、再び海へ。89年、アジア太平洋博覧会の開催地・福岡市をゴールとするヨットレースに参加し、太平洋を北上した。最初は長くとどまるつもりはなかったが、福岡の街と、2人を快く受け入れてくれた姪浜漁港の人々の人情に魅了された。

 ヤンセンさんは能古島の小学校などで外国語指導助手を務める。フェリーで10分の小島の豊かな自然がお気に入り。今津干潟や和白干潟にも足を運び、クロツラヘラサギなど渡り鳥を撮影する。「こんなに都会なのに、旅の途中に鳥たちが立ち寄ってくれるなんて」。インターネットで福岡市の自然の魅力を発信し、2人はヨットで日本を目指す仲間の案内人も務める。

 2006年に永住権を取得してからも時々、旅に出た。屋久島、石垣島、台湾…。だが旅程は予定よりも短い。「すぐにホームシックになってしまうから」。戻ってくるのは、当然、姪浜漁港。

 「ここが私たちの母港。こんな温かな気持ちになる人たちとの付き合いは欧米では味わえない」。まだ、いかりを揚げそうにない。

=2017/03/05付 西日本新聞朝刊=

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