渚にときめく(5) 太古からの命を見守り

西日本新聞

 2月下旬のよく晴れた午後。九州大学大学院・生態工学研究室(福岡市西区)の准教授の清野聡子さん(52)と、大学近くの今津干潟を訪れた。入り組んだ海岸線と穏やかな波。周囲には山や緑が広がる。「福岡の都心からほど近いところに、自然のままの海が残っている。素晴らしいことです」と清野さんは言う。

 長年、海の環境、特に絶滅危惧種のカブトガニを研究してきた。今津湾の砂浜には7~9月ごろに産卵にやってくる。平べったい節足動物で、数億年も姿を変えていない「生きた化石」。その命を紡いでいくためには産卵するための砂浜、幼生が育つ干潟、成体が生活する浅い海がそろうことが条件だ。

 清野さんが今津干潟を初めて訪れたのは約20年前のこと。地元の研究者の案内で、つやつやした甲羅のカブトガニを何匹も見た。都心からほど近い距離に、こんな環境が残っていることも驚きだった。漁業や農業と都市が有機的に結び付いていると思った。

 干潟や磯、砂浜がそろい、太古からの命を育む。そんな海を、清野さんは「里海」と呼ぶ。昔は日本全国のどの渚もこんな環境で、カブトガニが当たり前にいたのだろう、と-。

   □   □

 神奈川県逗子市で育った清野さんは、東大で学び、そのまま助手になった。2010年、九大に移り准教授に就任した。都市と田舎の自然が隣り合う福岡は魅力的で、残りの研究者人生を過ごしたいと考えたからだ。

 これまでの研究生活では破壊された海も見てきた。千葉県の砂浜は、沖合に並べた消波ブロックが原因で環境が激変していた。岡山県のある市では、干潟の干拓のため、カブトガニが絶滅していた。

 博多湾は、開発が進む東部の香椎地区や博多港などに比べ、西部の今津湾、今津干潟などは「里海」が残っている。清野さんは1956年に指定された玄海国定公園に、今津湾や糸島半島沿岸が含まれたことが大きいとみる。

 それでも玄界灘一帯に生息するカブトガニは減っている。「現在は千か万の単位で、10万匹はいない」とも。環境の変化は少しずつ忍び寄る。

 「カブトガニが減ったらアサリやハゼも減ったそうです。カブトガニは海の活力の指標なんです」

 地元住民や行政とも協力しながら「里海」をどう守っていくか。「生きた化石」のささやきに耳を傾ける。

 =おわり

=2017/03/08付 西日本新聞朝刊=

福岡県の天気予報

PR

福岡 アクセスランキング

PR

注目のテーマ