奨学金から見た、若者の貧困と社会の問題

西日本新聞

 返済義務のある奨学金は、ローンとおなじである。いま大学生の半数以上がこの奨学金を利用している。国公立か私学かなど条件にもよるが、600万円もの借金をかかえた学生もいる。ところが、彼らが卒業後に直面するのは「非正規雇用」や「賃金がなかなか上がらない」といった問題が満ちあふれた社会である。

 著者がこうした問題と向き合うことになったのは、2010年だそうだ。失われた10年や格差社会のもたらした悪影響が無視しえないほど顕在化した時期なのだろう。著者は30年以上前に大学生だった世代の認識と現状には相当な断絶があるという。

 たとえば、部屋を借りるより安いと、自宅から通う学生が増加していることについて述べたときに、そう感じたそうだ。

 「私がこの『大学への通学に3時間以上かかる学生』のことを、匿名にして自分のフェイスブックで紹介したところ、40~50代の複数の方から『往復3時間以上かかるぐらいは、大変だけど止むを得ないのではないですか』という内容の反対が返ってきたからです。」

 ひょっとしたら、似たようなことを感じた人もあるかもしれない。しかし、

 「これは『片道』であることを明示しない表現を使ってしまったことから起こった誤解ですが、『片道3時間以上』というのが、その人たちにとっては想像するのも困難だったからに違いありません」

 往復に6時間前後かける学生はけっして例外的な存在ではない。彼らは入りたいサークルにも入れず、その上、アルバイトをしなければやっていけないという。しかも、それが「拘束力が飛躍的に強化されていて」「学生であることを尊重しないアルバイト」だ。ちなみに著者は「ブラックバイト」の名づけ親でもある。

 アルバイトをする学生に向かって、「学生の本分は勉強だろ」と説教したり、「ブラックバイトなんてやめればいじゃないか」という連中のいかに無知なことか。これまで学生や若者の貧困化について、なんとなくわかっているつもりでいた人も、本書を読めば、その実情にきっと驚くはずだ。


出版社:朝日新聞出版
書名:奨学金が日本を滅ぼす
著者名:大内裕和
定価(税込):842円
税別価格:780円
リンク先:http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18825


西日本新聞 読書案内編集部

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